私の家の最寄り駅から西の方を見ると、電気の史料館という建物が見える。川崎駅からは送迎バスも出ていて、どんなところか多少興味があった。ヒマだったので、行ってみることにした。
史料館こは東京電力の技術開発本部があるところで、その敷地内に、電気の史料館が併設されている。資料ではなく、史料であるから、歴史を解説する展示が主のようである。家からは歩いて20分程度で、近い。まだ残暑で暑い中、身重の配偶者Sを連れて散歩がてらの見学だ。
まず、ここは入場料を取る。大人は500円で、けっこう高い。館内はきれいに整備されていて、客はほとんどいない。夏休み期間は自由研究のネタを仕入れに子供たちが来ていたのだろうと思うが、今は閑散としている。まずは1階左手からが順路だが、ちょうどvideo上映があるというので、2階に上がる。観客は5人ほどで寂しいが、冷房が効いていて外から来たばかりの私にはありがたい。スクリーンは3つのプロジェクタから投影される画像を3枚のスクリーンに映し出すのだが、画像自体のつながりがよくてきれいだ。ただ、真ん中のプロジェクタだけ、色が黄色っぽいのは残念だ。係のおじさんによると、「120年分の電気の歴史を17分に凝縮した、駆け足のvideo」だそうで、駆け足なんて言うから先入観が出来てしまって、本当に慌しい感じがした。30分くらいでもいいんではないか、とも思う。日本の場合、電気の歴史は地震や戦争での破壊、成長の繰り返しでもあり、それぞれの事情、風俗とのかかわりなど、もう少し詳しく解説してくれてもいいかと感じた。でも貴重な映像もあって楽しめた。
1階に戻る。日本の家電製品の歴史と、ランプやLEDなどのエレメントの展示がある。こういところに来ると、マツダ蛍光灯まずは弊社製品を探して歩くのだが、さすがに歴史ある会社ではあ発光が見えるようになっているる、ところどころに展示物があった。もっとも、東電としては偏った展示は避けたいのか、バランスよく各社の製品が置いてあるようにも思われた。国産初期の蛍光灯などはなかなか見ることができないから嬉しい(さすがに点灯はしない)。蛍光灯の原理を説明するための、放電が見えるランプや、三原色の発光体を塗ったランプがあったり、こういうのは面白い。
家電製品の展示は、デザインに個性があって楽しい。昭和30年代のものは私も幼少時に見ているはずなのだがさすがに記憶にはないけれど、なんと言ってもゴテゴテとボタンなどがついていなくて、シンプルなのが良い。ま、当時は機能をつけるまでもなく、自動で何かができる、ということが既に革新だったわけだ。そういう意味では、広告でいろんな機能を喧伝しなくてはならない今の家電業界はなかなか大変だと思う。
電気炊飯器パン焼き器制御盤(?)にも味があるなぁ







1階には他にもいろいろ展示がある。奥にカフェがあって、軽食や飲み物が食べられる。スパゲティが350円とか、ここらは良心的だ。この周りには蝋管時代〜SPの蓄音機のコーナーで、蝋管といえばエジソン社で、当時のポスターのレプリカも飾られていてこれが楽しい。エジソンは革新的な発明家であったのはもちろんだが、一方、自分の技術に固執したり、蝋管レコードに録音するジャンルが保守的だったりして、だんだん時代から取り残されていく。もっとも、自信に満ちた言葉が連ねられているポスターからは、その凋落の予兆は読み取れないけれど。
カフェでコーヒーを飲んで、引き続き1階の展示を見る。電球の展示の間に電気自動車があったりしてやや統一が取れていないところも見受けられる。それにしても、灯火管制用電球、なんてのがあったのか。むろん戦時中ゆえどんなことにも備えるのは必要であったろうが、こういう工夫をしなければならない時点で、苦しい展開であったことは想像できる。この電球に、当時のわが国の精神論の一端を見るような思いだ。
灯火管制用電球電気自動車炭素フィラメント電球








万歳鉄塔水力発電の水車1階の端にある階段のところには、水力発電の水車、発電機の断面が見えるように設置してある。これは1階では収まらないので、2階、いや3階相当の部分まで吹き抜けにして置いてある。その脇には初期の長距離送電用の鉄塔があり、そのうちの一つ、バンザイ鉄塔は人が万歳をしたような形をしていることからこう呼ばれたそうで、まさにその通り、という形をしている。これには、展示物にあまり興味がなさそうな配偶者Sも喜んでいた。
ここの階段を上がると、2階は変圧器や発電機などの大物が展示されているコーナーに出る。中でも、GE製の同期調相同期調相機機というのは圧倒的な量感がある。しかも、この機械、人の顔?1926年に導入されてから1988年まで63年間も使われていたというから驚く。電力事業というものの時間軸は、実に息が長い。倍々ゲームにしのぎを削り、設備投資のタイミングが勝負のような半導体業界に居ると、ここにある機械たちが神々しく見えてくる。羨ましくもあるし、また、息が長いだけにミスも許されず、日々の管理も大変だろうとは思う(半導体業界はいつもミスして管理もしてないという意味ではありません)
このフロ扇風機アから、先ほど映画を見た映写室に向かっては、海外の古い電気製品やモーターなどが展示されている。扇風機なんて、なかなかいいデザインしていますな。1階にも日本製の扇風機はあったが、けっこう米国の影響が大きかったのがよく分かる。ロゴの書体まで似ているのはやりすぎであ火力発電のタービンろう。
ここで、ガイドツアーの人たちとすれ違う。時間が決まっているのだが、説明員が付くツアーがあるのだ。その方が初心者には分かりやすいと思われるが(まあ私も重電系では初心者)、こういうところでは勝手気ままに見るのが一番だとSも私も思っているから申し込みはしなかった。展示室が静かなので、説明員の声がよく響き渡っていた。
映写室の前から階段を降りると、階段裏の1階は火力の大きなタービンを中央に据えたコーナーになっている。そこから右手は碍子(がいし)などの展示、さらに右奥はガラス製の碍子原子力についての説明だ。ここらでSはトイレに行き、私もだんだん疲れてきた。そろそろ終わりにしよう。ロビイで休みながら、アンケートに感じたことを記入して受付にもって行くと、でんこちゃんのシャープペンをくれた。
なかなか楽しい展示だったと思う。レプリカが動いたりするともっとよかったかも知れないが、まあタービンを動かすわけにも行くまいか。
帰りも歩いて帰って来た。


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06年9月10日 電気の史料館
(拡大する写真には枠が付いています)