東芝の京浜事業所があるところには、鶴見線という路線が走っている。その鶴見線の終点、海芝浦駅はプラットフォームのすぐ先が海ということで、都心近くの駅の中では珍しい存在である。この駅、東芝京浜事業所以外には出口がないので、東芝に関係ある人たち以外は駅構内から出られないのであるが、最近、公園が整備されたと聞いたので、行ってみる事にした。
鶴見線は工業地帯を走る列車で、鶴見駅を除く全ての駅が無人であるから、鶴見駅には鶴見線用の中間改札がある。鶴見−扇町がメインの線で、大川、海芝浦までの支線が出ている。扇町の手前、浜川崎駅には南武線の南武支線、尻手−浜川崎の終点駅が隣接していて駅が別々なのだが乗り換えが可能だ。まずは南武支線から乗ることにした。ここは単線、2両編成のワンマンカーで、日中は1時間に1-2本しかない都会のローカル線(?)である。駅は尻手駅含めわずか4つで、所要時間も10分程度だ。その10分を乗って、浜川崎駅に着いた。この路線でここのところ一番人口が多いのは八丁畷や川崎新町だろう。これらの駅の周辺にはマンションが多くある。終点の浜川崎は工業地帯の入口といった風情で、駅前には商店が1軒、それも閉まっていた。鶴見線の駅に向かうと、折悪しく列車がない時間帯で、30分近くの待ちになる。そこで周辺を散歩することにした。貨物線の踏切にて使われていない線路
南武線の駅から左の方向に歩くと、大きな踏切がある。ここは貨物線だ。元々、南武線は南武鉄道という浅野財閥系の鉄道で、今の青梅線も含め、多摩川の砂利を運ぶための(もちろん旅客も)鉄道だったのだ。南武支線もその中に含まれる。ところがこの大きな踏切も、今は実際使われている線路が少ないようで、すっかり錆びた線路が何本もある。寂しいものである。
踏切を渡ると、しばらく住宅や町工場などが続く。道路の突き当たりは"Think"という施設、テクノハブイノベーション川崎というらしいが、川崎のサイエンスパークの一つ。そこから右に曲がるとJFEスチール東日本の渡田地区という事業所だ。このあたり一帯の左手は「鋼管通」という地名で、日本鋼管の社名に因んアンテナだものだろう。そういえば、周囲には見事なサビを見せる物体が多いような気がする。鉄そのものが錆びているというのもあるし、鉄粉がついて赤くなっているものもあるように思うが考えすぎか。
Thinkの方には行けないので、左に曲がって貨物線芸術作品の下を潜ると、臨港バスと川崎市バスの営業所があった。市バスの営業所の近く、空き地に怪しげな物体が並んでいるので足を踏み入れてみる。川崎の高校生が制作した芸術作品が置かれている。これは「かわさき現代彫刻展2006」の展示物らしい。この臨港地区にいくつか展示されているようで、作業服を着たおじさんたちがやってきて、携帯電話で作品を撮っていた。このおじさんたちは周囲を巡回して見ているらしい。
ここで戻る時刻に。現代彫刻はいずれ見て回りたいと思う。駅までゆっくり歩いて戻った。
ボロボロ..見事なサビもう長いこと、列車は通っていないようだ










駅に着いたら客はわずかに3人。平日昼間の工業地帯とかかくも人がいないのかと思う。しばらくして鶴見行きの列車が来る。3両編成で、ちゃんと車掌がいる。ちゃんと、というのも変な話だが、なにしろ3両で10人くらいしか運んでいないからなんだか恐縮である。浜川崎から浅野までは3駅で、すぐに着いてしまう。浅野駅での乗り継ぎは3分待ちで、すぐに列車が来た。海芝浦行きの列車も3両で、こちらはわりと客が乗っている。海芝浦まで2駅はあっという間で、まあ元々160円区間で近いところを乗ってきているのだからそれもそのはず。途中で30分も待っているから何となく遠いような気がしているだけだ。海芝浦駅にて京浜事業所の入口
海芝浦は東芝の京浜事業所の入口に直結しており、本来は社員と取引先の人しか利用しない駅である。列車の進行方向の左側はすぐ海で、右手が京浜事業所になる。改札口はなく、警備室がすぐ目の前にあり、関係者以外はその手前の白線より中に入ることができない、と言われている(私は社員だから入れるが)。その白線より向こうにコカ・コーラ、さらに奥の警備室の向かいには切符の自販機があって、これらで用を足す分には特に咎めら公園にある風力発電機れないようだ。白公園は案外狭い線の手前を左に進むと、そこは最近整備された公園になる。公園といっても、海を見ながらベンチでくつろぐ、それ以外には何もしようがない狭いものであるが、他にも数人の一般客(?)がいて、それなりにここは知られている様だ。あとは、これから事業所に向かう、あるいは事業所で仕事をした取引先の人がタバコを吸っているくらい。風が冷たいが、日が当たるところは少しポカポカしてのんびり海を眺めるにはいい天気だ。日向のベンチを選んで、そこで弁当を食べることにする。家の近くのスーパーマーケットが改装して、弁当・惣菜コーナーが拡充されたので、早速そこで弁当を買ってきたというわけだ。風で、弁当のフタやビニール袋が飛びそうなのを押さえながら、冷めてしまった弁当を食べる。暖かければ最高なのだがここまで1時間以上かけて移動したのでそれは止むを得ない。しかし天気がよいから、外で食べるのは気分がいい。のんびり食べるつもりが、何やかやでガツガツとやっつけてしまい、10分くらいで終了。こういうところが貧乏臭くていけない。
公園から海を見る何やら工事中弁当を食べ終わるとき、駅のほうに何やら動きが。しまった。列車の時刻を見ておくのを忘れた!。先ほど乗ってきた列車が20分ほどで折り返して行くようだ。と、気付いても既に遅い。既に列車は発車してしまった。時刻表を見ると、次は1時間後である。うわー、この狭い公園で1時間とは、のんびりし過ぎではないか。参ったね。実を言うと、今日は帰ってから配偶者Sの会社の同僚が家に来ることになっている。カレーパーティの予定なのだが、カレーは3種、ごはんの他にナンも出すつもりだから準備に時間がかかる。1時間後の列車で帰ると準備には1時間少々しか掛けられない。果たして間に合うのか。警備室でタクシーでも呼んでもらうかとも思ったが、そこまで焦っても仕方がないので、覚悟して1時間を過ごすことにする。私は写真があるからいいけれど、配偶者Sはすることがないから少し気の毒だ。アクティヴなSは、この細長い公園では退屈するのではないかと思う。でも、仕方ない。待つとしよう。
写真を撮っていると、だんだんと日が傾いて来た。冬が近いことを実感する。公園の中はあまり撮るものがないから、ひたすら望遠レンズで遠くの工場や船を撮りまくる。
タンクを取り壊し中?周りはどこも工業地帯浮き輪が常備されている








鶴見つばさ橋いろんな船が通る







撮るのにも飽きたころ、列車が来る音がした。そうだ、我々が来たときと同じく、次の列車も20分くらい前に到着するわけだ。車内で待てば暖かだからこれはあ夕暮れ迫る海芝浦駅りがたい。車内から海が見える
駅には既に東芝から出てきた人が何人かいるが、やはりまだ就業時間内なので人は少ない。荷物(と息子S)を座席に置いて、しばし海の音を聴いていた。何にもない駅だが、関東の駅100選に入るというのも何となく分かる。のんびり、ぼんやりするにはいい。本当に、ほかにすることがないからだ。
鶴見までは7駅、十数分で着いてしまう。家に帰り、カレーの準備をしていたら早くも来客が来たけれど、全員集まる頃には全部完成し、無事にパーティが出来た。なんとも、のんびりしたり忙しかったり、変化に富んだ一日だった。


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06年11月24日 海芝浦へ
(拡大する写真には枠が付いています)