唐突だが、名古屋にはいろいろと縁がある。
まず、母方の実家が岐阜県で、名鉄の路線に乗り換えるため名古屋をよく利用したこと(現在は廃線)、親戚が住んでいること、仕事の関係で時々(以前はかなり)出張すること、そして、東芝フィルの友人たちに名古屋大学出身の人たちがいること。最後の名古屋大学なんて、どこでもありそうな話ではないかと思われるだろうが、この人たち、なかなかのキャラクターで、極めて魅力に溢れている。酒の席で面白い人が多いのだが、それより何より楽器が上手く、その母体となった名古屋大学管弦楽団はどういうところなのかと、興味が尽きない。それで、岩手に住んでいる時に花巻−名古屋航路を使って名古屋まで演奏会を聴きに行ったことがある。予想に違わずそのレヴェルに感心したのであったが、それ以来、都合がつく限り名古屋に演奏会を聴きに行くようになった。今回は、7月中旬から数えて5週のうち4回が、アマチュアオーケストラの演奏会ということになり、偶然とはいえ我ながらマニアであるなと思わざるを得ない。
さて、今回聴きに行ったのは名古屋弦楽ゾリステンという、弦楽合奏を中心とした比較的小編成(ヴァイオリンでいうと概ね4プルト)の室内オーケストラである。詳しくは知らないが名古屋大学管弦楽団の出身者がメンバーのほとんどであるらしい。皆が夏休みで集まりやすいという基準なのか、毎雨の川崎駅年8月中旬に演奏会を開いている。今年は8月16日の土曜日だ。折から、梅雨明けしたはずの日本列島は雲に覆われ、大雨に見舞われているときで、肌寒いくらいであった。休みで昼夜逆転気味の私は昼近くに起床し、ゆっくりと準備して出発した。何しろ夜の演奏会である。余裕はある。川崎駅に着いたら、京浜東北線が雨の影響で乱れており、10分以上の遅れだという。遅れていても本数があればあまり関係ないのだが、土曜の昼とあって、たいへん間隔が開いていた。15分近く待たされ新横浜て列車に乗る。東神奈川で横浜線に乗り換えるのだが、これがまた遅れ。しかも、安全確認のため徐行運転をしますというアナウンスだ。だいたい30km/hだったようだが、少々いらつく時間を過ごした。新横浜に着き、こだま463号に乗ることにする。これは時間どおりで、名古屋終着は1625、まだ余裕がある。新横浜駅では細かな改装をしている。古いプレート式の表示板が電光掲示に更新されるようで、思わず写真を撮ってしまった。あのパタパタも味があってよかったんだが。その他、各車両の出入口にも電光表示がされるようになるようで、これは親切であろう。10月には品川駅が開業して、こちらは使わなくなることが確実なので、よく見回して目に焼き付けておこうと思う(そんな大げさな話ではないか..)。外はよく見えない
こだま463号列車が入線した。200系のこだまとは意外だ。1号車はガラガラで、お盆休みの終わりに下りだから空いていて当然か。前回、名古屋に行ったときは特急東海だったので朝が早く、眠かったが今回は楽だ。寝ていても乗り過ごすことは無い。ただ、こだまは最近、速度より待ち時間の方が深刻なようで、東京−名古屋間でなんと6回も待ち合わせをした。小田原(2本)、三島、静岡、掛川、浜松である。当方急いでいないので別にいいが..車窓はあまり面白くない。雨が激しく、速度を上げると景色が見えるが、駅に着くと滝のように雨水が降ってくる。梅雨のころはあまり降らなかったのを取り返しているようで、しかしこの時期に日照が少ないのは稲作には影響が大きいのではなかろうか。
退屈したが、眠るマリオットアソシアからこともなく、名古屋に到着した。豊橋あたりで雨は上がっていて、名古屋市内も道路が乾いている状態だ。アマチュアオーケストラは天気が良くても悪くても客足が遠のくと言うが、それはつまり、天気が良いと他に遊びに行ってしまい、雨が降ると面倒になって来ないという本当かどうか分からない理屈であるが、曇りなのでこれはたくさんいらっしゃるかも知れない。それ以前に、名マリオットアソシアから(パノラマ合成)大関係のオーケストラは、固定客がいるのでいつも動員は多い方であるから心配はないだろうと思う。
さて、まだまだ時間はあるのでJRセントラルタワーズに登ってみる。展望台は入場料を取られるし、天気もよくないので、15Fのマリオットアソシアの入口のところで十分だろう。正面の「大名古屋ビルヂング」はもうお馴染みの風景だが、右手、豊田・毎日ビル(正式名称は知らないが)は解体作業に入っていた。なんでも、ここに超高層ビルが建って、トヨタの本社が入居するらしい。1度、トイレを借りたくらいなので全くなじみがないが、厳重な覆いの中に瓦礫があって、何だか妙な光景であった。
風景を堪能したので(大げさ)、電気文化会館に向かうことにする。伏見にあるのだが、それほど遠くは無いので、歩くことにする。本来この項を書くのだから地上を歩いた方がネタはあってよいのだが、やはり名古屋とくれば地下街、「ユニモール」「サカエチカ」を歩かねば(分かんない方はすみま無題せん)。伏見に行くので、サカエチカは通らないのだが..それと、今日は涼しくて過ごしやすいので、敢えて地下街を通る必要はない。が、国際センターまで歩いてしまい、ちょっと遠回りっぽいがそこから地上に出て右の方に歩けば伏見だ。いいかげんな歩き方だが、名古屋は碁盤目状の道路なので、大体間違うことはない。ただし、夜酔っ払って栄を歩いているととんでもない方向に行ってしまうことが昔あったが。
それで、地上に出たわけだが写真のネタはあまりない。あと20分ほどで開場だし、あまりうろうろは出来ない。昨年来たときは何やらパレードなどしていたように思ったが、今年はやっていないのか、場所が違うのかは分からない。ここで4枚、写真コーナーにしよう(ネタなくてゴマカシ..)。
マンホールみちしるべ三井住友銀行でんきの科学館











右上の写真で、でんきの科学館を道路向かいから撮っているが、この先、オリンパスの看板が見えたので向かい側に渡らずに歩いている。名古屋支店(?)の様子を見ようと思ったのだが、よく考えたらオリンパスはお盆休みであった。アホらし。
電気文化会館のコンサートホールはでんきの科学館の地下にある。科学館前庭の右側に滝があるが、それが吹き抜けとなってホールのロビイに自然光を入れるようになっている。開場まで隣のコーヒー店で休んで、開場と同時に中に入った。実は、ここの団体の演奏会CDの原版作成も引き受けており、そのCDインレイも印刷するので、そのネタとして、舞台を撮っておきたいのだ。客席最後部に座って、舞台を狙うつもりである。ただ、主催者から見れば私は部外者でしかないので、演奏中は当然、控えることにしている。希望の位置に座り、左右も前も空いていたので撮影には支障がないだろうと思っていたら、開演直前にバタバタと入ってきたおねーちゃん方3人が相次いで前に座ってしまい、しかも、すぐ前の方は髪の毛を上で束ねてぴょんと立っている。一瞬にして、写真には最悪の席になってしまった。会場は、400名弱の定員に7割程度は埋まっているようで、まあまあの動員かと思うが、後で聞くと6割くらいだったとのこと。あてにならないな、私の感覚は..
今日の演奏曲目は以下の通りである。
ナルディーニ/ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
独奏:永田 好美
モーツァルト/クラリネット協奏曲 イ長調 K.622
独奏:田本 摂理
シューベルト/マーラー編曲/弦楽四重奏曲 ニ短調「死と乙女」D810 弦楽合奏版
指揮:加藤 晃/名古屋弦楽ゾリステン
ナルディーニナルディーニは解説によると、18世紀のヴァイオリン奏者だそうで、この協奏曲は後世の派手なテクニックを披露するような曲とは趣を異にして、優美な曲想が目立った。独奏の永田さんはここの団員であり、アマチュア離れした技術を持った人らしく、事実この曲の魅力を余さず引き出していたと思う..って、この曲は初めて聴いたのであるが。この方の演奏を独奏で聴いたことはなかったのだが、こうして聴いてみると極めて丁寧な奏法にも場面ごとのいろいろと表情があって楽しめた。3楽章では短調と長調が激しく入れ替わるのが特徴で、ドヴォルザークの「スラヴ舞曲第8番」など目ではない間隔で入れ替わる(後世の曲を引き合いに出すのもおかしいか)。それはともかく、その短−長のコントラストと独奏−合奏のコントラスト、そして音量と表情が乱れなく切り替わるのはこのオーケストラの真骨頂と言うべきところで、実に楽しい瞬間であった。
2曲目はモーツァルト。クラリネット協奏曲は東芝フィルでもやったことがあるので、一応全楽章知っている。この曲のソロは田本 摂理氏、プロである。プロゆえの存在感はもちろんあって、モーツァルトらしい軽快さと陰影が自在に歌われ、特に儚いまでの2楽章のピアニシモは美しかった。このピアニシモはいい意味に予想外の展開で、驚くほどの効果を出していたと思う。もちろん、ソリストだけが小さくすればいいというものではない。バックのオーケストラの実力あって、これが実現したのだと固く信じてやまない。シューベルト
休憩を挟んで、メイン曲はシューベルト作曲、マーラー編曲の弦楽合奏版「死と乙女」である。この曲は両端楽章しか知らないので、緩徐楽章とスケルツォは初めて聴く。1楽章はいきなり運命を告げるような激しい音型から始まり、第2主題がおそらく「生」を表現するのだろう、ナルディーニやモーツァルトどころではない、強烈なコントラストはこの曲のタイトルにふさわしい迫力を以って聴き手に迫る。編曲のマーラーも非常に細かい人で、その効果を最大にするためか、本来4人でやるこの曲を、ヴァイオリンの中で音を分けたり、ヴィオラの人数を場所によって変えたり、コントラバスが加わったり休んだり、弦楽合奏という範疇ではあるが多彩なオーケストレイションを展開していて、視覚的にも楽しめるものになっていた。シューベルトは歌曲の王とも言われていた通り、この曲にも歌ごころが随所に込められているわけだが、それを存分に歌い上げたオーケストラの技量にはほとほと感心した次第である。「死と乙女」というと、エゴン・シーレやエドヴァルト・ムンクの絵を思い出す方も多いと思うが、このシューベルトは上述の絵に比べると安らぎが感じられるような気がする。鬼気迫る表現もあるにはあるが、次々に現れては消える美しい旋律が、最終的にシューベルトが求めていたものではなかろうかと思えるのである。
熱気に包まれた4楽章が終わり、アンコールなしで演奏会は終了した。いや、たしかにあの演奏の後に何が必要だろうか。深く、深く感銘を受け、会場を後にした。
演奏会終了後、メンバーのCKさん、KM君、TI君に挨拶すべく、打ち上げの会場まで行ってみた。東芝フィルの室内楽演奏会のCDが出来ていたので、それをついでに渡し、今回は時刻が遅いので飲まずに帰ることにした。打ち上げ会場が栄に近かったので、希望通り(?)サカエチカをちょっと歩いて、地下鉄で名古屋に向かった。名古屋からはひかり176号で、珍しく着席できず。お盆とはいえこの時間なら何とかと思っていたが、甘かった。静岡で降りる人が近くにいたので、そこからは着席することができた。新横浜はまだ雨が降っていて、横浜線はやはり徐行運転。終日、こんな状態だったのだろうか。雨を避けるように名古屋に行って、十分以上に楽しめたのだから、今日はいい日だったと思う。


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03年8月16日 名古屋 (名古屋弦楽ゾリステン サマーコンサート)
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