しばらく仕事が忙しく、まじめに撮る機会がなかった。それで、早起きして撮影に出かけたいところだが生来の寝ぼすけ、これがなかなか実行できない。今日も起きて部屋を片付けたりしていたら、いつしか日が傾いていた。ならば、夜景を撮ればいい。冬は遠くもきれいに写るはずである。
鶴見区に住んでいるからとりあえず近場で済ませるには、桜木町、みなとみらい21地区が手っ取り早い。今年は楽器フェアという展示会で行ったきりで、しかもそのときは曇天で景色は冴えず、不調のまま帰ってきたのであった。以前は、新しいレンズを手に入れると、このみなとみらいや恵比寿ガーデンプレイスなどに出かけて、いろいろ試し撮りをしたものであったが、今は購入してすぐ実戦投入、世の中そんなにボケボケなレンズなどありはしなし、モノ選びにも多少自信がついて来たから、それで事は足りている。しかも、近年は高感度フィルムの性能向上が著しく、手持ちでも撮れてしまうのだ。とはいえ、夜景撮影の面白いところは..三脚を据えて確実に撮る風でありながらバルブのアバウトなシャッター秒時でどんな結果になるかわからないこと、普段止まった情景ばかりを撮っているから動と静が同居する画面が新鮮なことである。
さて、機材は軽量にする。10月に買ったばかりのデジタルカメラもいいが、ここは思い切って不均一なセットにしてみた。カメラはライカMマウント、ベッサR2に、レンズは戦前のズマール50mmF2、広角はコシナのウルトロン28mmF1.9である。ズマールはレンズに反射防止のコーティングが施されていないので、逆光性能があまりよくなく、収差も多いので独特の描写になり、人によっては「ボケ玉」の呼称を頂戴することがあるレンズだ。私の持っているレンズは資料によると1936年(昭和11年)の製造。67年前である。一方、ウルトロンは2001年4月に発売になった新しいレンズであり、写りが悪いはずもない。実際良く写るのであるが、これらをどういうシチュエイションで使い分けて行くか、これを考えるのも楽しいものである。ベビーローライについてはこのときが初出動であった。
夕方家を出て、桜木町に着く頃にはとっぷりと日が暮れていた。風があって少々寒いが、木々を撮るわけではなく都会の風景だから被写体ブレはなく、そのまま撮影すればいい。
早速、古いズマールで撮ってみた。結果は右のとおりで、強い光源の周りはさすがに白っぽくなってしまうが、かなり絞っているので写真としては悪くはない。まあ、こういう撮り方をすると、「ズマールを絞って撮るなんて」とかなんとか、ライカ使いは一筋縄では行かない人たちなのである。もちろん私も含めて..この写真は桜木町駅前広場からランドマークタワーへの連絡通路の上から撮ったのだが、三脚をセットしていると、今日、何かあるんですかと通りがかりの人に尋ねられた。いや、聞いてません、あるかも知れませんが、私はただ夜景を撮っているだけなのです。と答えたが、何やら夜景撮影興味がお有りのようなのでひとくさり、撮影の話などをした。特にイヴェントがあるわけではないから、こういう無駄話もいい。
ランドマークタワー自体は、下から見てもたいしてきれいではない。羽田に着く飛行機の窓から、ああ、見えるなという感想を抱く程度であるし、いまは年末、オフィスは真っ暗だからビルの先端部分だけ光って、やはりきれいではなかった。ところが、1階と、古いドック部分を改装したところがライトアップされていて、それは何枚か撮ることにした。
青い光は写りにくいので、心持ち露出over目に撮る。と言いつつ秒時カウントは適当だ。自動露出のカメラで撮るのもいいが、長時間露出は電池の無駄だと個人的には思う。今日のカメラは機械式のシャッターで、1秒以上開けるにはバルブにして自分で数えなくてはならない。そんなとき、ISO100の感度で、絞りF8、10秒もシャッターを開ければ、大抵写るのだ。ただし、たくさん撮って後からパノラマ合成する、というような場合は厳密に露出を合わせる必要があろう。今日はそういう意図はないので、全く適当に撮ってしまった。結果は問題なかった。ドックの底までけっこう写ってしまって、これは予想外だった。
こうして撮っていると、何人かの人に、シャッターを押してくれと頼まれる。いつも、快く撮って差し上げるのだが、さらに今日は三脚まで使って、完璧なスローシンクロで撮影して上げた。デジタルカメラならその場で結果が分かって、こういうときには助かる。そうそう、自分のデジカメが三脚に付くことを知らない人もいて、うーん、こういう時代なのかなと年寄りめいた感想を持ったが、実際、三脚ネジ穴がないカメラも存在するのだ。それでいて夜景モードとか、機能だけはメニューに載せて、それでいいのかと私は思うのだが。
撮影している隣の広場では、大道芸をやっていた。昼間見ることはあったが、夜もやっていたのか。早速、それも撮らせてもらう。中望遠レンズで切り取ってもいいのだが、観客まで入れて、こんなところだという説明的な写真にしてみた。やっている方、なかなか面白い話術の方で、なんと、客にツッコミを入れるのである。ただ、ちょっと声を張上げすぎで(PAしていて音が割れ気味)耳障りな気もしたが。そこらへんが洗練されれば、かなり良いのではなかろうかと思った。面白かったので、しばらく見ていた。この大道芸の広場の近くに、飴などを売っている人がいて、それ自体はどうということのない光景だが、この人の後方頭上に「許可無く物品の販売を禁じます」という意味の看板が..この人、許可されているのだろうか。あるいは、ここまで堂々としていたら「まああの人は許可されているんだろうな」でチェックが入らない、とか?撮影したかったが、後でもめると可哀想なので撮らなかった。
次は遊園地にでも行こうかと思ったが、また先ほどのドックのところに戻って、念のためで何枚か撮影。ドックの上
の橋
の中でも撮ってみた。下に載せた写真の1枚は、古いズマールで撮っている。コマ収差で、点光源のボケ方が独特の形になっているのが分かると思う。これがまん丸になればいいか、というと理想はそうだろうが、今の基準で古いレンズをダメと言うのもヘンな話で、これはこれでいいのだ(強引か)。
遊園地は閑散としていた。乗り物があまり頻繁に動いてくれない。それでも、タイミングを見ながら撮ってみたのが下の写真である。
右側のアトラクションも動いている方が格好はついたかも知れないが、これは動と静の対比、ということで..両方動き出すまで立っていると寒いので、つい移動してしまった。まじめに撮影すると言いながら、根性無しな行動には我ながら呆れる他はない。
遊園地の道路向かい側はクィーンズスクエアというショッピングモールで、みなとみらいホールがあるところでもある。ホールでは何度か演奏会を聴いたり演奏したりしたことがあるが、ショッピングはまるでしたことがなく、夜にここを歩いたこともなかったので、今回、足を踏み入れてみた。階段から街路樹から、電飾されていて美しい。ここは、あえて
ズマールの絞り開放付近で撮ってみよう。結果は予想通りで、ピントの芯はあるものの、ホワホワの画像が得られた。実際にこんな風に見えるわけではないが、たまにはこういうのも良かろう。
さて、すっかり冷えてしまった。三脚を伸縮させるのがつらい。手袋を忘れてしまったのだ。かといって、薄暗いところで、脚を伸ばしたまま歩くのは周囲の人たちにはもちろん、自分も危険である。ここらで屋外の撮影は一休みしようと思う。夕食でも食べて帰ってしまうのも手だが、暗いながらも未だ時刻はそんなに遅くない。この際、ランドマークタワーの展望室に上がってしまおうかと思う。この展望室はスカイガーデンと称され、69階、標高273mのところにある。そこへ上がるエレヴェータは最高分速750mで、世界一速いという。1階から69階までを40秒、速いことは速いのだが完全な密室なので、多少の縦Gと気圧の変わりを感じる以外は、ごく快適な乗り物だ。入場料は1000円で、安くはない。それで上がってみて遠景が霞んでいたら悔しいものがあるが、今日は冬の日の快晴、問題はないだろう。ここに登ったのは7年前くらいで、なぜかライカM4を買った帰りに、ここに寄ったことを思い出した。カメラとこことのかかわりは、全く関係ないのだが..夏の日で、あまり遠くが見えなかった。
入場券を買って、列に並んだ。年末ゆえか、空いている。すぐに乗ることが出来た。箱の中は暗くて、ディズニーランドなどのアトラクションにもありそうな雰囲気であるが、ここはただ登るだけで、意外性や迫力有るBGMが流れるわけではない。するりと、69階に着いた。箱を出ると南東側の展望台で、夜景の場合、ここからが最も景色は良い。まず一周してみるが、他の面では住宅地が目立って
、あまり夜景としてインパクトがない。遠くに高いビルなどが見えたりするのだが、これは、昼間に他の景色、例えば山などをバックに見るほうが良いように思われた。ということを確認して、最初の南東面に戻り、ここで何枚か撮る。廊下は薄暗いので、夜景を見るには環境は悪くない。それでも、売店などが窓に映り込むので、カメラに覆い被さるようにして映り込みを防がなければならない。こういうとき、レンジファインダーカメラではなく、一眼レフの方が良いのだが、今はとにかく想像で何とかしなければならない。また、窓ガラスがすごく汚れている。これは、皆が手を突くからで、これはそれを拭くためにハンカチを1枚余計に持っているから問題ない。でも、けっこうゴシゴシやらないと汚れが取れなかった。撮影結果は上に載せているが、まあまあであった。観覧車の下あたりは露出overだが、他の遠景とのバランス上、これがいいところかと思っている。なお、空いているとはいえあまり広いところではないので、三脚は小さめに開き、周囲に配慮した。ブレたりする危険はあるものの、暗がりで引っ掛けられるよりはいい。
撮影終了し、カフェでビールを飲んだ。湘南ビールという地ビールで、1本750円は位置エネルギーmghが加わっているとしか思えないが、何しろ暖房が効きすぎで、暑い。飲むことにしよう。こくのあるタイプの黒ビール、という説明であったが、予想よりはすっきり味だった。なーんだ。でも、撮影も一段落してのビールというのは掛け値無しに美味しいものだ。
下に降りてきた。また寒くなり、もうあまり撮る気はしない。タワーの裏手に回って、ステンレスのオブジェを撮って、退散することとした。このオブジェ、昔はよく超広角レンズの試写によく使っていたことを思い出す。今回は28mmで、オブジェ全体を画面に収めることは出来ないが、それなりに作画してみたのが下の写真だ。実
際
はこんなに明るくは見えないのだが、これも遠景とのバランスでこういう露出にした。ネガフィルムなので、比較的露出overには強いから、私はどうしてもover側に振ってしまうクセがある。次回はポジで撮るつもりである。
そんなわけで、まじめなのかいいかげんなのか分からないような撮影ではあったが、ネタとしてはまあまあなものが出来たので、ここに上げた次第だ。家を出るときは三脚が邪魔だなと思っていたのだが、やはり撮るときの安心感が違う。今後もいろいろ撮ってみることにしたい。
まちあるきトップへ