07年7月中旬
マレーシア出張(1)
第1日 第2・3日
マレーシアと聞いて、たいていの人は何を思い浮かべるだろうか。一時期世界一だった、クアラ・ルンプールのペトロナス・ツインタワー、マラッカ海峡のあるところ、ランカウイやペナンのリゾート、マハティール(元)首相とルック・イースト政策、マンゴーやドリアンなどの果物、大型昆虫の楽園、などだろうか。実を言うと私がこの程度の認識であるだけで、他の方はもっと知っているのかも知れない。そして、これにもう一つ、弊社の半導体組立工場、東芝エレクトロニクス・マレーシア社(TEM)がある国でもある。会社に入って18年、海外に関わる案件にはほとんど携わったことがない私は、今まで海外出張というものを経験していなかった。ところが、急に担当することになったある製品群の製造拠点に、このTEMが浮上したのである。そんなわけで、これからしばらく、マレーシアへの出張があると予想される。仕事の内容はもちろん書けないけれど、短期の滞在中に経験したマレーシアでの出来事を綴っていくことにする。

第1日 07年7月18日

日程に紆余曲折があって、最終的には7月18日から20日までの3日間、となった。しかも20日は19日の夜行便で成田に着く、というだけなので、実質は2日間のようなものだ。今日1日は移動だけだから仕事は明日の1日だけ。マレーシアにいる時間は30時間、前後24時間近くが移動(空港までの交通も含み)..この強行軍にも一つだけメリットがあって、次の週末、市民オケの本番なのである。16日に練習、21日に子供向けのちょっと小さな演奏会、22日に定期演奏会。出張が前にずれても後ろにずれても、困るのだ。幸いにして、現地法人の要人がこの日しかダメ、と言っていたので、オケには影響がない日程に決まったのだった。
本日は0545起床。マレーシアへの航空機は、ANA(マレーシア航空との共同運航)とJALの2社が直行便を飛ばしている。本日はANAで、帰りはJALなのだが、この変則の予約になったのは、同行する上司がANAのマイレージをためているからだ。帰りは、曜日の都合でJALしか飛んでいないからJALになっている。ANAは1030に成田発で、時刻がえらく早い。8時半には空港に居なければならない。私の家からは成田までドアtoドアで約2時間。それでも横浜市の中では恵まれているほうだろう。予定通り6時半に家を出て、JRを乗り継いで東京駅0715発の成田エクスプレス5号に乗り込んだ。車内はほとんど満席で、見たところ、出張っぽい雰囲気の人が多い。天気は曇りで、スモークガラスのNEX車両からみると、余計どんよりとしてあまり気分は良くない。昔住んでいた千葉を通り過ぎ、景色が広くなってきたところでうとうとしていたら、成田空港に着いた。
駅に降り立ち、改札に向かっていたら、急に、肩の荷物が軽くなった。するりと、ストラップが肩から滑り落ち、ゴトリと石の床に荷物が落下した。何が起こったのか一瞬判らなかったが、すぐにストラップが切れて抜けているのに気がついた。モバイルPCが動かなくなったら一大事。向こうでのプレゼンテーションのネタは事前に送ってあるのだが..それより何より、肩からかけるのに慣れてしまって、手がふさがるのがイヤなのである..結局、PCは現地できっちり稼動するのだが、事前に送っておいたファイルは現法の人のPCには届いておらず、同行した上司のPCは現地のLANに繋がらず、けっこう危ない状況だったことが翌日判明する。ま、この時点では悩んでも仕方ない、とターミナルに向かったのである。
そして、ターミナルでも問題が。ANAとマレーシア航空の共同運航なので、第1だと思い込んでいたのだが、どこに行ってもマレーシア航空の文字はない。いやな予感を胸にANAのカウンターに行ってみると、マレーシア航空とのコードシェアは第2ターミナルでございます、と至極丁寧に間違いを教えてくれた。恥ずかしいけど、でもなんでそんな..仕方なく、巡回バスに乗って第2に向かう。意外にも10分近くかかる。時間に余裕はあるが、何となく焦ってくる。第2に着き、JALのカウンターで恐る恐る旅程とパスポートを出すと、チェックインをしてくれた。席番は17Kの窓側。17番ってなんとなく翼の上のような予感があるが、まあいいか。しっかり、ANAのマイレージまで登録してくれた。しかし、ここJALの窓口なのである。非常そういや免税店増えたんだったっけに違和感あり。
私は先日からJALのサファイア会員になっており、試しに手荷物検査のファストレーンを通ってみた。サファイアカードと、ANAの航空券でも問題なく通してくれた。その勢いで、JALのラウンジに行ったら、これは丁重に断られた(ビジネス以上はOKらしい)。ま、そりゃそうだろうな。でも、このターミナルにはANAの施設はないのだ。なんとも、中途半端な状態だと思う。マレーシア航空の発着便はたいした数ではないのに、なぜこちらに回されているのか理解に苦しむ。
そのまま、携帯電話でmixiに書き込みなどしていたら、搭乗の案内があった。機材はB777で、新しい。機内は2-5-2の配列で、真ん中だとかなりストレスを感じそうだ機内は空いているが、この日は空いていて、概ね5割くらいの客しか乗っていないようだった。ほとんどの人が2列シートにいて、真ん中の島にはちょろちょろ。私の席は、見事に翼の上であった。景色はあまり楽しめないが、元々ほとんどの行程は洋上だからまあいい。後ろのマレーシア人らしきおばちゃんが携帯電話でずーっとしゃべっているのが気になる。おばちゃんって、と括りたくはないが、やっぱりどこの国でも似ているかも..機内での携帯電話については、以前乗ったコンチネンタル航空では「前部ドアが開いている間はOK」というのがあったので、ひょっとするとこの機でも今は大丈夫なのかも知れないが..と思っていたら、CAの人が来て電源を切れと注意した。ま、普通はそうだろうなぁ。
概ね時間通りに飛び立った。外は曇りなので、ずっと雲の上を飛んでいる。まぶしいので、ブラインドを閉じて音楽を聴いていることにする。いつも出張で使っているノイズキャンセリングヘッドフォンを使う。B777は新しい飛行機だからか、元々の静粛性もあるようで、ノイズキャンセリングの効果がより高まっているのはありがたい。しばらく音楽を聴いていると、昼食の時間になる。魚の洋食と牛の和食、とのことで、マレーシア航空の食事和食を選択する。後ろのマレーシア人たちはムスリムらしく、豚は入っていないだろうね、としきりに確認していた。牛の和食とは、牛肉を一口サイズに切ってとろみのついたソースで焼いてあるもので、その皿には白飯も盛ってある。昼食のトレーには元からパンも載せてあるので和食にパンがついていて違和感があるが、機内食はたいていこんな形になるものだ。少し塩辛いが、肉は柔らかいし、まずまずのところだろう。機内が寒いので、赤ワインをもらって体を温めることにした。
機内エンタテインメントを試してみる。ベルリッツの会話教室があって、しかも選べる言語が非常に多いので驚く。マレー語を選ぶ。まずは数詞。数詞は1から順にsatu,dua,tiga,empat,limaといった調子で、欧米系の先入観では全く理解できない。これは数をこなして覚える他はない。1〜100まで一通り発音を聞いて、テストをしたら70点。こりゃ、かなーりひどいレヴェルである。その後、数字インヴェーダーゲームというのがあってこれが面白かった。3機(?)のインヴェーダーが上から降りてきて、それぞれに数字が書いてある。インヴェーダーが降りてくるとき、数字がアナウンスされるので、それに該当するものを撃てばクリア、間違った数字の機を撃つと爆弾が雨あられと降ってくるという趣向だ。これはけっこう本気で遊ぶことができた。
数字撃ちにも飽きて、しばらく眠る。機内はどこもブラインドを下げ、暗くしている。夜行便ではないのだが、やっぱり午後は寝るべきなんですな。時々外を確認するが、ず熱帯らしい雲っと雲の上だった。一応台湾の上空を通り、右手にヴェトナムを見る(ほど近いかどうかは自信なし)航路なのだが。あと1時間半くらいのところで映画を見る。なんと、日本で見て散々な感想を抱いた「シューター」(吹き替え版)。いま見ても、あまり気乗りがしない映画だった。
高度が下がり始めた。映画は中断され、外を見る。積乱雲らしき背の高い雲が多くて、熱帯に来たということを実感する。空港の周辺は一面ヤシの木(パームやし)で、整然としているので、おそらく畑なのだろう。クアラ空港の周囲・ルンプール国際空港(KLIA)は市街から60kmほど離れたところにあるとは聞いていたが、ここまで何もないところとは思っていなかった。
予定通り着陸。タキシングが随分長い。建物の前で止まったら、気の早いおっちゃんが荷物を出して歩き始めてしまった。いや、ちょっと、まだスポットについてないよ。右手にC4とこの状態で10分待ちいうスポットが空いているのだが誘導がないのでここじゃないだろう、と思っていたら、10分ほど経って誘導されないままC4に着け始めた。周囲には係りの人が居るのだが全く知らん顔である。それでもここが正しいところだったようで、無事機外に出ることができた。
KLIAは黒川紀章氏の設計だそうで、外観は熱帯の家屋を大きくしたような形で、中は大きな吹き抜けがあって木が植えられていたり、なかなか凝った作りだ。「世界のベスト空港」と大書してあるので、そういうコンテストでその栄誉を受KLIAの国際線ターミナルけたのだろう。それにしても、この巨大空間を空調するのにはけっこうカネがかかりそうだ。両替店で1万円をマレーシアリンギット(RM)に交換する。278RMだから1RM=約36円、うわー、レートが悪い。同行した上司は成田で1.5万円を370RMに交換したというからそれはさらに悪くて1RM=40.5円だ。円安傾向とはいえ公には33円くらいだから、まったく、銀行って儲かるね。それはさておき今回、実はRMを使う機会がほとんどない。ホテルはクレジットカードだし、KLIAとホテル、ホテルと会社の間、帰りの会社からKLIA、全て社用車での移動なのだ。1万円は両替しすぎと思ったが、まあ、次回以降もあるだろうから良いことにする。
入国審査を通る。係の人はムスリムの女性で、簡易的なフードをかぶっている。顔全体は見えるので特段の違和感はない。全く何も質問されずに通過、税関も申告なしで通った。さて、この後後続のJAL機で来る人を待つ(1時間)。社用車は今日は1台しか回せないので、待つしかないのである。上司のマイレージのわがままで同じ便になったのがちょっと恨めしい。その1時間を有効活用すべく、まずは売店に行く。小額紙幣を得るためだ。売店というのはいつもワクワクする。現地のドリンクやスナック類を見るのはいつも楽しいものだ。今日も、あるある、見たこともないメーカの毒々しい色をしたドリンクが。レッド・ブルは見慣れた細い缶ではなく太い寸胴の缶。他にはF&Nというメーカの、たぶんコカコーラ社のファンタをパクったイメージのドリンクが多数。F&Nは後でホテル周辺で買うことにして、まずはミネラルウォータを購入、0.8RM也。次に携帯の電源を入れる。会社のau端末のSIMカードを私用の705NK(Nokia N73)に入れてみたが、「SIMカードが無効」と出て使えなかった。帰国後auのHPを見たら、社用携帯のW45Tは対象外だった..あー、確認が甘かった。それで、私用の端末をonしてみると、MY MAXISという文字が出て、マレーシアの会社に繋がった。それで上司のレンタル携帯にかけてみたら、なんとそのレンタル機、着信だけで電池切れになってしまった。これは会社の中で保有しているレンタル端末で、出張者に貸し出されているものなのだが、電池が持たないと評判が悪い。評判そのままであった。もう1軒、バーガーキングにも寄りたかったがさすがにこれから現法の人と夕食というのにそれは失礼だろうからやめておく。
そうこうしているうちに、東芝エレクトロニクスマレーシア(以下TEM)のTさん、Yさん(日本人の現法スタッフ)が迎えに来た。あれ、迎えに来る人が2人、たしか運転手は現地の人だからこれじゃ車に乗れないのでは、と思ったがさすがにそれはなくて、こういうときのために社用車にエスティマを使っているとのことだった。ちなみに、関税がものすごく高額なので邦貨にして700万円以上するらしい。JALで来たHさんが合流し、外に出る。ムッとする暑さだ。ちょうど夕立のころで、今の季節、夕方には雷雨が多いのだという。運転手がエスティマを回してきた。車内はむちゃくちゃ冷えていて寒いほどだ。
マレーシアは英国統治下にあったので右ハンドル・左側通行である。空港からは高速道路に直結しており、すぐに速度が上がる。外は大粒の雨だが、現地運転手は構わず速度を130km/hに。針路変更には方向指示器を出さない。よほど切羽詰った変更のときには点滅させて、しかも案外すんなりと周囲も入れてくれるようだ。途中、工事渋滞などがあり、運転手氏は大サーヴィスというか、路肩運転までしてホテルに届けてくれた。市内は帰宅ラッシュでむちゃくちゃ混んでおり、右に左に進路を変えるからちょっと酔ってしまった。
ホテルはPJヒルトンという。PJはペタリン・ジャヤという地名で、クアラ・ルンプール市内ではないらしい。社用車で送り迎えされるから市内でなければならない理由ははないのだ。なんでも、市内のホテルは軒並み満室の由。若干、市内のホテルよりは古いそうだが室内は広大で、もったいないほどであった。冷房を切ってから部屋を出る。
ホテルの部屋バスルームホテルからの夜景








ロビイで待ち合わせをして、夕食へ。田園粥火鍋というマレー風中華の店だそうだ。薄い粥にゴマ油、醤油を入れて風味をつけ、海鮮や点心、野菜を入れて煮るのである。ガンガンに冷やした室内で鍋をするというのは贅沢といえば贅沢、そういう目で見ると心なしか店内の客が金持ちに見えてくる。隣は日本人の団体だった。さて、その火鍋だが、あっさりした味だ。具の味が粥に染み出す後半が特に良い味だし、刻々と変化する味を楽しむのも良い。ビールはシンガポールのタイガービール、鍋をつつきながらのビールは美味しい。途中、中休みのつもりでジュースを頼んだら、フルーツそのものが出てきてしまった。スターフルーツはイマイチだな。今回初めてだったので冒険してみたが、これは失敗。マンゴーとスイカがすばらしい。
火鍋(最初の状態)具を入れるとジュースのつもりが








フルーツを食べるとどうも「終わり」感が出ていけない。この後、TEMの運営責任者M氏が中国出張の帰りにここに寄るらしいのだ。運営責任者、とは実質は社長なのだが、はプレジデントとかCEOとかいう呼称はなくて、マネージメントディレクタ(直訳だと専務あたり)と言っている。会社の制度上、トップはマレーシアの人が就くらしくて、高貴な人の係累に当たる御方が会長ということになっている。なお、当地は立憲君主制で、9州のスルタンから5年交代で王が互選される。実際の政治は首相(マハティール氏の長期政権は有名)が切り盛りするあたり、会社店の看板もそれに似て再度マンゴーをいる。
で、そのM氏だが、22時から合流した。既に2時間経っているので腹いっぱい、酔いもかなり回っているのだが会社員の悲しい性、先に食べたフルーツの皿は隠して、鍋に入れる締めの麺を注文して、しかる後に「フルーツ行きましょう」と気遣ってしまうのであった。今度はスイカジュースにマンゴーを頼んで、しかし2度食べても美味しいのだ。堪能した。
車でホテルに送ってもらい、近くを散策する。キオスク(日本でいえばコンビニのような店舗)でF&Nグレープ、LIVITA(リポビタンD)を買う。F&Nグレープは少し粉っぽい感じがするが案外いける。LIVITAは日本の味と同じだった。
シャワーを浴び、携帯で配偶者にメイルを打ち、日記を書いて就寝。
ホテルの前の通り外来語を音のままで表記電飾の3色は3民族を表すらしい








F&NとLIVITAマレーシアの紙幣













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