Nikon SP

 遅ればせながらニコンSマウントも入手した。このマウントのカメラ、レンズは以前に比べると非常に安価になっている。標準レンズは内爪、広角・望遠は外爪というやり方なので、レンズ交換時にはリアキャップの取り扱いが少し面倒なのと、無限遠位置にしてからレンズ交換する必要があるなど、慣れないうちは戸惑うこともある。
 ファインダーはライカM3に対抗すべく28/35/50/85/105/135mmの視野に対応しており、21mmや25mm、ミラーボックス対応の望遠域を除く全てのレンズがカメラ内でフレーミングでき、便利である。距離計と一体化した標準レンズ以上のファインダーの左に広角側のファインダー(こちらは距離計なし)が配置されていて、キヤノンのように倍率切り替え(35mm用と標準以上)機構を入れるやり方とは異なっていて考え方の違いが面白い。広角側は目測でも撮れるとはいえ、このマウントには高名な35mmF1.8があるので、それを使うとなると測距と構図のファインダーが別なのはやりにくいとは思う。
 シャッターは布幕タイプとチタン幕タイプがあり、私が持っているものは前者である。チタン幕の方がシャッター音が大きいらしい。布幕も少しカチッとした音で、ライカM型よりは大きいように感じるが、こちらも好きだ。シャッターボタンは手前にあり、ここだけスクリューマウントライカ的な設定である。このボタンの周りにあるカラーはA(巻き上げ)・R(巻き戻し)の切り替えを兼ねており、このカラーの高さがシャッターリリースの邪魔になると感じる人も多いようで、ボタンをかさ上げするアクセサリーも存在しているが、これをつけるとかなり飛び出して見えるのでこれはこれで奇異な感じもする。ニコンとしてはボタンを誤って触ってシャッターが切れてしまうのを防止したかったのかと思うが、ここらへんのバランスは難しいと思う。

 マウント形状はツァイスの距離計コンタックスと同一であるが、標準レンズの焦点距離が異なるので距離合わせが異なり被写界深度の深い広角から標準レンズまでが共用可能というのが定説になっている
(クラシックカメラの店でも聞いたことあり)が、この説は少しおかしくて、外爪マウントではレンズとカメラの距離環を機械的に連動しているだけで焦点距離と回転の関係はレンズ内のダブルヘリコイドで補正され、標準レンズの内爪マウント部の繰り出し量とは関係がない。となれば外爪レンズならどれでも(コンタックスの新旧モデルのようなレンズ後玉形状都合で物理的にはまらないのを除き)距離計連動には問題はないはずである。残るはフランジバックが違うという説と、標準レンズの焦点距離が違う説がどうか、であるが、私が使っている現時点の範囲ではゾナーの50mmF2が近距離でも支障なく使えているので、とりあえずツァイスレンズの共用は可能なのではないかと考えている。今後レンズが増えたら確認して行きたい。
 以下、作例については焦点距離順、F値順にツァイスレンズも混ぜて並べて行くつもりだ。

(レンズ名称の焦点距離はcm表記のものもmmに統一している)
 
ニッコール W-Nikkor・C 28mmF3.5 (ニコンSマウント)
 4群6枚構成のオルトメター型広角レンズで、レンズ部分は小さいが外爪を使うマウントゆえに鏡胴全体は大きい。カメラからの出っ張りは少なくコンパクトにまとまる。距離計とファインダーが別になるが、最短撮影距離0.9mまで270度近く回すため距離表示が広い間隔で並んでおり目測での設定がやり易い。
 極めてシャープなレンズで、絞り開放でも実用になる。四隅はF11くらいまで絞っても少し怪しく、流れたような感じになるものの、画面のほとんどでくっきりした像が得られるので四隅はほぼ気にならない。
 
ニッコール W-Nikkor・C 35mmF2.5 (ニコンSマウント)
 4群6枚構成のガウス型広角レンズで、28mm同様外爪を使うため鏡胴は大柄に見える。画面中央は絞り開放からシャープで、優秀なレンズである。ボケは輪郭が強めでうるさい感じだ。F2.5という口径比は薄暗いシーンでは頼りになるスペックである。最短撮影距離は標準レンズと同じ0.9mである。
           
プラナー Planar 35mmF3.5 (コンタックスマウント)
 カール・ツァイス銘の世代のレンズである。このシリーズの35mmレンズはビオゴンが有名ではあるが、このプラナーも写りの良さでは定評がある。絞り開放から全体に良像でコントラストがよく、色がくっきりとしている。開放絞りがF3.5で被写界深度が深い上に最短撮影距離はカメラのヘリコイドの回転で決まる0.9mとあってボケを活かした構図はなかなか難しい。ピント面がしっかりしていてボケ像へとなだらかにつながっていくので見た感じが自然で使いやすいレンズである。
 
ニッコール Nikkor-S・C 50mmF1.4 (ニコンSマウント)
 3群7枚構成のゾナー型レンズである。-S・Cではなく-S表記のものは後年出たガウス型のレンズだ。
 描写は、絞り開放では甘めでF2以降急激に締まってくる。ボケはざわざわして荒っぽい。ライカマウント版のレンズが高価なので、フィルムで楽しむにはこちらが向いていると思う
(あちらは45cmまで近接できるのでミラーレズデジタル時代になって利便性が上がったと思うし、当面市価は高値維持だろう)。最短撮影距離はカメラの内爪マウント部そのもので決まり、0.9mである。
 
ゾナー Sonnar 50mmF1.5 (コンタックスマウント)
 ツァイス・オプトン銘の世代のレンズである。Optonとは、東西ドイツに分かれてしまったツァイスの西側での工場名で、光学(Optik)と所在地のオーバーコッヘン(Oberkochen)から命名されたもの。その後、カール・ツァイスの商標使用の裁判の後に西側ツァイスのレンズはカール・ツァイス銘となっている。
 先にF2の方を試してピントの精度については問題がないことを確認しているが、このレンズでも絞り開放、近接で十分実用になると思う。描写は、絞り開放では全体にコントラストが低くピントも甘めだが、F2で急激に締まってきて、F2.8以降は鮮鋭な像が得られる。
 
ニッコール Nikkor-H・C 50mmF2 (ニコンSマウント)
 3群6枚構成のゾナー型レンズである。F1.4と同じく"・C"がついていないタイプがあり、同様の経緯であればそちらはガウス型のレンズだろうが、ネットで調べてもそのものずばりの記述が見当たらない。
 ライカマウントのレンズで既に経験しているので描写について特に新たな発見はなかろうと思っていたが、少し傾向が異なるようにも思える。こちらのレンズの方がボケが穏やかに感じるのだ。同一条件での比較をするのも手間なので、将来、マウントアダプターを入手したらシグマfpで試してみたいとは思う。描写は中心部は絞り開放からシャープで、ボケへのつながりがよく、自然な感じがある(ライカマウントの方は同心円状に引っ張られる傾向が強い)。絞れば全体に均質でコントラストの良い画像が得られる。
 レンズ前枠の径はF1.4の43mmに対してこちらは40.5mmと一回り小さいが全長は変わらないので、ファインダー視野を遮る度合を除けば、カメラ全体の大きさや取り回し上の違いはほとんど感じられない。
 
ゾナー Sonnar 50mmF2 (コンタックスマウント)
 絞り開放からピントはよく、ニコンSPで使っても近距離でピントの問題はなさそうに見えるので、実用になると判断し使っている。絞り開放ではコントラストが低めで、周辺のクラゲ型ボケ像もあって整っていない感じはあるが、F4以降は癖が少なく全体にシャープである。
           
ニッコール Nikkor-P・C 85mmF2 (ニコンSマウント)
 3群5枚構成のゾナー型レンズである。ニコンのレンズの優秀性を有名にしたレンズとしてよく知られている。分厚いレンズが入っていてずっしりとした重みがある。フィルター径が48mmで、このサイズの純正フードがあまり残っていないので、私はキヤノンの85mmF1.9用のねじ込みフードを流用している
(キヤノンの内径50mmのかぶせフードはこのレンズには窮屈で、無理をして入れるとレンズ先端部を傷つけそうだ)
 描写は、絞り開放ではコントラストが弱めであるが解像は画面周辺までしっかりしている。ボケは素直である。口径食があり高輝度部がレモン型に変形するので、F4程度まで絞ると円形に整う。逆光にも強く、良い描写のレンズである。最短撮影距離は1m。
           
ニッコール Nikkor-P 105mmF2.5 (ニコンSマウント)
 3群5枚構成のゾナー型レンズである。85mmと同じく、分厚いレンズが入っていて重たいのと、被写体側から見ると絞りが奥まったところにあるのが特徴的だ。絞り開放から解像は良く、周辺での悪化も少ない。ボケは素直できれいだと思う。純正のフードは枠の内側に爪をひっかける形式で、外れやすい。レンズが重く、フード部分を掴んだりすると落下事故の原因になるので、注意が必要である。最短撮影距離は1.2mで、絞り開放では歩留が悪い。自分の持っているカメラの距離計像が薄目なので、暗くなると合わせにくいのと、シャッターを押す時の姿勢が安定せず前後しているかも知れない。
 
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