06年5月 九州小旅行 第1日 第2日 第3日 第4日


●第3日 06年5月2日(火) 高千穂峡→通潤橋→熊本

 待望の、高千穂峡観光の日である。待望の、というのは私がこ朝食も豪勢ですこに来たかったからで、私の好きなカメラメーカであるオリンパスは、戦前に高千穂光学と称していたのだ。それで、ここの地名が私の頭に刷り込まれたというわけ。とはいえ、高千穂光学銘のカメラは戦前のもので、そこまでは私もコレクションしていないから、あまり深く考えてのことでもない。ゆっくり起きだして、朝食は広間で食べる。昨夜に続き、自家製の豆腐が出てきて美味しい。粥に加えて普通のご飯まであった。朝から質・量ともに満足する。

 高千穂峡は宿を出るとすぐ裏手になる。車でくねくねした細い急坂を下りると、駐車場に導かれた。狭い谷底であるが土産物屋などが建ち並び、たいへん繁盛している。遅い時刻だと、駐車場やボートの順番待ちがひどくなるとのことで、特にボートは最大で90分待ちにもなるらしい。まずはボートを申し込んで、付近を見て回る。新緑は今が最盛期で、実にきれいだ。阿蘇では標高のせいか緑にはまだの感もあったが、ここはちょうどよい。ただ、日差しが強くて暑い。
 滝を撮影していたらボートの時間が来たので、乗ることにする。30分で1500円とは高いなぁ。途中で漕ぎ手を交代してはいけないというので、最初からSに漕がせる。女性、しかも妊婦に漕がせるとは、との指摘もあろうが..撮影したいのと、流れがほとんどない、狭い範囲での移動なので運動量もないからまあ問題あるまい。カメラバッグ、三脚をボートに乗せ、次いで自分が乗る。座布団が救命具になっているようで、そこから出ているヒモを腕につける。水面へと滑り出した。水の上は驚くほど涼しい。深い谷の中は光が届きにくく、水温が上がらないのであろうか。先ほど渡ってきた橋の潜ると、その先は直立した崖に囲まれた静かな川面がある。そこに、真名井の滝の水が布のような細かい水流を落としている。ボートは10艘くらいはいるだろうか、時々景色に見とれてお互いに衝突したりするのだが、元々ぼんやりゆっくり漕いでいるので大事には至らない。撮影は暗くてなかなか難しい。揺れるボートの上から撮ると、当然ブレるのだ。こういうこともあろうかと、マミヤ7IIにはISO400のフィルムを入れてある。デジカメはISO200でがんばるが、後で見たらやっぱりブレていて成功率は低かった。ともあれ、あっという間に25分が過ぎてしまい、乗り場に戻ることにする。惜しいが、楽しめたから次の人に譲ろう。
高千穂峡 何枚も撮る 暗くてけっこうぶれた..

 ボートを降りて、今度は峡谷を上から眺めることにする。遊歩道が整備されていて歩きやすい。真名井の滝の水は、小さな貯水池を経由して崖から水を落としている。人工的に作ったというわけではないだろうが、上から見るとなんだこんなのかと思う。ここから少し歩くと、観光ポスターなどでもおなじみの、峡谷を見下ろす展望台のようなところに出る。景色がよいから非常に混んでいて、入れ替わり立ち替わり、人が絶えることはない。三脚を据えて、ここからの風景をじっくり撮影することにする。もっとも、その合間に10回ほど、他の人のシャッターも押すことになってしまったが。気合を入れて風景を風景を撮っている人はほとんどが35mm判の一眼レフで、中判は私の他にもう一人、助手を連れたプロらしき人がいた。どうやら人が風景に入るのはいけないらしく、ペンタックスの645を大きな三脚に乗せて、ひたすら人通りが切れるのを待っていた。その間ずっとくわえタバコで、周囲が煙いのは感心しなかったが。本人はそのつもりではないだろうけど、横柄に見えるんだよね、アレは。同類には見られたくないものだ。
橋の上から 展望台(?)より 望遠で ここらへんはけっこう暑かった

 ふと周囲を見ると、Sが行方不明になっていた。私が撮影に時間をかけるので、先に行ってしまったようだ。まあ、急かされるよりはずっといい。ところで、この遊歩道だが、日が照っていて暑い。水面の涼しさとは大違いで、大勢の観光客がお互い縫うように歩くこの状況は見ているだけで汗が噴き出してくるようだ。峡谷の端の方、3つの橋が見えるところでSを発見して、そこから駐車場に戻ることにした。遊歩道を途中から左に折れ、池を越えると水飲み場があって、湧き水が流れている。甘い味がして、気温が下がったような爽快な気分だ。車道の向こうにある玉垂れの滝を撮影して、これにて高千穂の観光を終了。昼食にする。駐車場入口の食堂に入って、Sは高千穂定食(ヤマメの塩焼き、鮎飯)を注文する。私は高千穂牛定食にしようかと迷ったが、高額なのでビーフカレーに。カレーといっても高千穂牛の高級(?)カレーで、昨晩同様、肉がとろけるように柔らかい。Sが頼んだ定食のヤマメは脂が少なくてさっぱりしている。鮎飯は鮎の肉が入った混ぜご飯であるが、鮎の香りが濃くて人によっては苦手に思うかも知れない。でも美味しかった。

夫婦杉高千穂神社 駐車場に戻ると、ボートの受付に長蛇の列が出来ていた。この炎天下で並ぶのはつらいだろうなあと思いつつ、車に乗り込んだ。このあとは、高千穂神社、天岩戸神社を回ることにする。高千穂神社はすぐ近くで、車で数分もかからない距離にある。高千穂峡とは違って駐車場はガラガラであった。境内は木々の陰になっていて涼しい。ここは毎夜に観光の神楽をやっているそうだが、昨日は遅く着いてしまったので見ていない。今日はもう熊本に行ってしまうから、神楽は次の機会にしよう。境内には杉の巨木が多い。樹齢800年の秩父杉というのがあって、鎌倉時代、源頼朝の代理として秩父の豪族畠山重忠が天下泰平の祈願に参詣し、そのとき植えたと伝えられている。高さは55メートルにもなるそうだ。他に目立つのは夫婦杉。この周りを手を繋いで3回回ると夫婦仲・家内安全・子孫繁栄の三つの願いが叶うという。それでは、と3回回ってみた。ちょっと、照れくさい。
 高千穂神社を出て、天岩戸に向かう途中、高千穂鉄道の高千穂駅に寄ってみる。高千穂鉄道は05年9月の台風14号で橋梁が流れるなど壊滅的な被害を受け運休し、その後経営を断念するに至った。今、地元の人たちが部分運行などを検討しているそうで、駅の売店には「復帰する 高千穂神話鉄道」「高千穂鉄道 レールでつなごう全国へ」と手書きの紙が貼ってある。全国へ、となると全線を復旧しなくてはならず、地元だけではとても負担できない出費が伴うだろうし、こういう点で、国鉄・JRから分離した(させられた)地方鉄道というのは苦しい。最近でも、新幹線が並走する在来線を第三セクターに切り替えるという手法でJRは合理化を図っているように思われるが、どうもこのやり方はスマートではないと思う。特急料金を払う長距離客を新幹線で運ぶのは、昔から儲かると分かっている。それだけを大会社が確保し、地元の路線は通勤・通学の人だけで維持しろというのは無理なのではなかろうか。高千穂鉄道は新幹線とは関係ないけれど、これから先全線が復活するのは厳しいだろう。赤く錆びたレールを見ながら、そんなことを考えていた。

神楽をやっていた天岩戸神社にて 天岩戸神社は郊外にあって、車でしばらく走る。暖かい空気の中、車はのんびりと走る。この先に、本当にあるのだろうかと疑問に思い始めるころ、商店や家が増えて、右手に神社の駐車場があった。ここは高千穂神社に比べると車が多く、観光バスも何台か止まっている。さすが天照大神を祀った神社、天岩戸伝説の社。神社の拝殿自体は新しい建築のようで、これは高千穂神社の方が雰囲気が良いと思うが、ここの境内も杉などの大木が多くて、涼しい。神楽殿では神楽を演じていた。図らずも、神楽が見られたのは嬉しい。
 近くを流れる岩戸川をさかのぼると、天安河原というところがあって、ここが岩戸開きのときに神々が方策を相談したというところだ。岩戸川に沿っている遊歩道は一部が閉鎖されていて、しばらく車道を歩かなければならない。車道から川へと降りて行き、森の中を歩くのは気分が良い。木天安河原々の様子を見るに、紅葉の季節に来ると特にすばらし洞窟の中からいところではないかと思う。
 天安河原の洞窟の周囲一面、小さな石積みがたくさんある。ここで石を積むと願いが叶うという言い伝えからこの風習が広まったそうで、先の九州の地震で全て崩れたものの、いつの間にかまた積まれていたという。登山道にあるケルンとはまた違って、それぞれが小さく独立して、そこらじゅうにあるのが壮観というか、宗教的な迫力がある。崩さないように注意深く歩いた。駐車場に戻って、Sは売店で会社の人たちへの土産を買う。私は何も買わずに店先で休んでいた。

 さて、今日は熊本泊まりであるが、このまま阿蘇経由で向かうのは避けたい。同じ経路よりは違うところを走ってみよう、というわけで通潤橋に行こうと思う。有名な、江戸時代に作られた灌漑用の水道橋である。距離からすると夕方までには着けそうだ。放水はしているかどうか分からないが、見るだけでも面白そうなので行ってみることにする。国道218号線を南西に走る。ここは阿蘇の南であり、標高はそれほど高くないようで、新緑は終わっている。窓を開けて、風を入れながらのんびり走るには良い道路で、気分良く運転して通潤橋に到着した。
 残念ながら放水はしていなかった。掲示を見ると、連休のときは10・12・14時の3回放水があり、その他の時間は予約制で1回5000円で放水する由。5000円なら払ってもいいと思ったがもちろん事前予約ではないから今では無理だろう。少し日が傾いていて空はうす曇り、風景としてはあまりしゃきっとしない感じである。橋に向かう遊歩道右手を見ると、川向いの杉にかかる藤の花がきれいだ。藤の花は道中もたくさん見たが、ここほど立派なのはなかった。橋は、下から見ると圧倒的な量感があってすばらしい。左手から階段を上ると、橋の幅が予想以上に広くて安心した。私は、手すりのない高所は苦手なのである。一休さんじゃないけれど、橋の真ん中を歩いて渡った。向かいに渡ると、下の川まで歩ける遊歩道があるが、ここはあまり整備されていない。さすがに妊婦をこの下まで歩かせるのは、と思ってここで戻ることにした。また橋の真ん中を歩いて、駐車場に戻った。
水飲み場 通潤橋 上から見るとけっこう怖い 放水する穴

 もう夕方近いので、熊本に急ぐことにする。ここからは国道445号を走る。Sは疲れたようで、一度車を降りたいというのだがレストランやコンビニ等が全く無く、ようやく、廃業したと思しきコンビニの駐車場に停めて小休止した。その後国道266号を経由して熊本市街に入るころに日が暮れた。市内への交通はけっこう渋滞している。市街に入るところの橋で混んでいるようで、これはどこでもそうだ。橋を渡った後はスムーズで、19時ごろにアークホテル熊本に到着した。ここはインターネット予約で取ったもので、2人で1泊8500円という安さだ。別料金で朝食も付けてもらって、チェックインする。まずはホッと一息。

 夕食は熊本ラーメンにしようと思っている。が、意外と定休日にかかっている店が多くて、結局あても無く市街に出ることに一蘭のラーメンなった。熊本市は初めてである。いつも出張で行っている大分に比べると大きいと思う。アーケードが多く、天井が高いのは何となく仙台市を思い出す。飲食店はめぼしいものが見つからず、さんざん歩いて見つけたラーメン店、「一蘭」に入ることにした。食券を買って席に着く。一人ずつブースで区切られていて、店員の顔は見えない。席に置いてある案内を見たら、なんと博多ラーメンの店で、しかも川崎に支店があるという..やっちゃったー、と思うがまあこれは仕方ない。ちなみに、Sは普通のラーメンで、私はねぎ増量(4倍との触れ込み)にしてある。最初に卵を食べて味覚を研ぎ澄ませて下さいとか、いろいろ作法があるのだがもったいないのでちょっとかじっただけで残しておいた。出てきたラーメンはとんこつのこってりしたもので、これはなかなか美味しい。ちょっと塩辛い感じがして、予想とは違う方向とも思ったが、まあこれもアリだろう。肉が苦手なSからチャーシューをもらって、けっこうな量になった。それなのに、帰りにケーキ店に粥ってしまった。ま、旅先でケチってはいけない。

 ホテルに戻り、シャワーを浴びたらすぐに眠くなった。明日は帰る日である。4日間ってすぐだなぁ、と思う。


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