93年12月末−94年1月初旬
第1次欧州旅行


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●第3日 93年12月31日(金) バーゼル→ヴィーン

 本日も鉄道旅行。選択すべき列車は2つ。
  チューリヒ 0735−1630 ヴィーン EC165 フランツ・シューベルト号
  バーゼル 0825−1830 ヴィーン EC163 トランザルピン(アルプス横断)号
この他、昼の列車でマリア・テレジア号、夜行ではヴィーナー・ヴァルツァー号などもここを通る。上記の2本のどちらかにする判断は、要するにウィーンで余裕を持つかバタバタするかということに尽きる。演奏会自体にはどちらも間に合うのである。そして、トランザルピン号は、ガラス張りの展望車を連結した、これまた昔の憧れの列車なのだ。しかし、ウィーンで何があるか分からず、演奏会に間に合わないのは最悪なので、ここは早起きしてシューベルト号にしよう。この列車はバーゼル始発ではないので、チューリヒまでは1時間、区間急行に乗っていく必要がある。その発車時刻は、0625。そのため、朝食のオーダーシートには5時45分に部屋までよろしく、と大書しておいた。昨夜早めに就寝したので、目覚ましが鳴る前にしっかり目が覚めた。うむ、これは幸先良し。ところが...どういうことか、朝食が来ないのである。時間はあっという間に過ぎ去り、もう6時近い。だめだ、これはもう出なくてはなるまい。すぐ玄関に下り、掃除をしていたレセプションのおじさんに出立を告げる。最新のPCに何やら打ち込むと、曰く、貴方は朝食を食べていないのではないか、と。あー、食べていないのですが、6時25分のインターシティに乗らなくてはならないのです。もういいです。いや、貴方の宿泊費は朝食費を含んでいるのだから、食べるべきである。
(そりゃそうだけど)えー、ですから、もう時間がないのです。そこへ、食堂から朝食の盆が出てきた。あの、遅くなって申し訳ありません..ここで怒っても時間は戻らないので、ええい、ちょっとだけでも食べるか!。喫茶コーナーのようなところで、食べる。見ると、オーダー通りの品目が並んでいるが、量が多い(トースト5枚にクロワッサン2個)。バターはバラの花のような形に加工され、アイスピックで砕かれたとおぼしき氷の上に、3個鎮座なされ、時間があったら絶対写真を撮っていたと思うが、そんな発想はもちろん無く、トーストにぐわーっと塗りたくり、スクランブルエッグとソーセージとほとんど一緒に食べる。極めて美味。食材が高級。ホットミルクとコーヒーは半々でカフェオレにし、これも濃くておいしい。あー、やはりトランザルピンにすればよかったか。しかしここまでしていまさらゆっくり食べるのも不審であろう。後ろ髪引かれる思いで、テーブルを後にした。

 不幸中の幸いというべきか、ホテルが駅前に変わっていたので、道路を渡れば駅である。いやいや、慌ててはいけない。ひょいと渡って事故に遭ってはいかん。右側通行だから、こっちを見て、あっちを見て..車は全然走っていなかった。駅構内にはおよそ1分前に入り、こういうとき改札が無いのはありがたく、しかし列車は一番遠いプラットフォームだった。地下通路を荷物を抱えて走り、階段を駆け上がり、最後尾の車両に飛び乗ったら、ドアが閉まり、音も無く列車は動き始めた。ああ、間に合った。ちょっとの距離であるが、汗だく。異常気象のせい、ではない。
 飛び乗った車両は2等車だったので、1等車を目指し歩き始める。この列車はコンパートメント(6〜8人の部屋)ではなく、オープン車両(日本の特急列車の形式と同じ、中央に通路のある形)ばかりのようで、通路をガラガラと荷物を引いて歩くのは少々恥ずかしい。4両歩いたら、食堂車があった。しかも、満員で皆、わいわいと食事中。欧州の列車の食堂は、列車が始発駅に入線したときから営業が始まっていると聞くが、その通りであった。恐縮して、通路を通らせてもらった。それにしても、このバーゼル・チューリヒ1時間、チューリヒ空港まで行っても1時間20分程度のインターシティで、食堂車が付いていること自体、今の日本人には理解しがたい。こんな列車が、30分おきに走っているのである。これも、旅客数が少なくて余裕のある欧州らしいところであるが、収支は大丈夫なのか、他人事ながら気になる。それで大丈夫というなら、日本の鉄道の合理化とは、何なんだろう。しかし利用者側にしても、例えば成田エクスプレスに食堂車があったとしても、格別便利だとは思わないだろう。そういう習慣がない、ということだ..などと考えて食堂車を抜けると1等車であった。1+2列の余裕の配置。これはいい。さて、と思ったら椅子が黄金色の毛だらけ。ここは、御犬様(いや、動物一般と言うべきか)お立ち入り可能車両だったのだ。危うく座るところだった。次の車両はヒト専用だったので、ここでようやく落ち着く。折りよく車内販売が通りかかる。籠に山盛りになったクロワッサンが目を引く。それ以外はこまごまと商品が置いてあるのは日本の車販と変わらない。先ほど食べられなかったクロワッサンと、コーヒーを所望。ぱりぱりでおいしい。コーヒーも香ばしくて良い。1泊しかしていないが、昨日のアイスクリームもそうで、スイスの食材というのは手抜きがなくておいしい。車内販売でちょっとつまむ程度で、こんなにおいしいのは失礼ながら意外であった。

 車窓は真っ暗である。冬の欧州は、日が短い。結局、チューリヒまでずっと暗いままであった。定刻の07:23、到着。乗り換え時間は12分である。チューリヒ中央駅は行き止まり式で、先ほど車内で前へ前へと歩いていたから、出口に近いところで降りることが出来た。ヴィーンフランツ・シューベルト号室内行きフランツ・シューベルト号は4番線に入っていた。今度の車両は全てコンパートメント式で、1等車は3人×2の6人1室。昨日のように全然知らないドイツ人5人に囲まれるとなかなか緊張するが、今日はガラガラ。6人部屋を独占状態、いやよく見たら、1両に2人しか乗っていなかった。冬、スイスを移動する人は少ないのだろうか。後でインスブルック前後ではスキー客が乗ってきたものの(何と、スキー靴履いたまま。よほど駅近くに住んでいるのか、車で駅まで来たのか)、乗降はほとんどなく、これはこれで寂しいものであった。
 車内は清潔で、座席が昨日のドイツと異なり、柔らかい。いろいろな姿勢でも、フィットするタイプである。空いているのは好都合で、写真など撮るのに気兼ねがなくていい。ほどなくして、発車。音が無く発車するのもなかなか良いものである。日本でのホームの喧騒は、これも人口密度ゆえと言ってしまえばそれまでだが、駅員も大変なストレスだろうし、それでかどうか分からないが、放送もついついがなりたててしまうのだろうか。当地では何も言わなくてもトラブルにもならないのはなぜか、ちょっと考えてフランツ・シューベルト号車窓からみたいものである。
 車窓、ようやく夜は明けたものの、天気は曇り。晴れていれば相当に美しいであろうが、今日はちょっと写真向きではない。というのも、乗っている車両の窓が、スモークガラスなのである。シャッター速度が全然稼げない。今回、アグファのRS200というリヴァーサルのみを持ってきていて、感度200では厳しい。とりあえず撮ったものは、ほとんどブレていた。
 列車は快調に進む。しかし、山間部を通るので加減速も頻繁である。座席の上に置いてあった「ユーロシティ国際急行列車のしおり」(しおり、などという単語は無い。勝手に意訳)によれば、ユーロシティ(EC)種別の列車の特色として、「1/2等・食堂車のフル編成(昔のTEEは1等のみだった)、90km/h以上の平均速度、2ヶ国語の車内放送」などが売りらしい。この90km/hというのが意外に遅い気がする。普通の列車は150〜200km/hで飛ばしているのに、今乗っている山間部を走る列車はどうしても不利で、この数字に落ち着いたのだろうか。とはいえ、以前日本一速いとされていた在来線の特急はつかり号も平均では90km/hまで行っていなかったので、90km/h以上、と謳うのは日本の事情からすればうらやましい限り。レールの幅、強固な地盤が速度に有利なのフランツ・シューベルト号車窓からは言うまでも無い
(と思っていたら、今は日本にも平均時速100km/h以上の在来線特急があるようだ。技術の進歩であろう)。面白かったのは、2ヶ国語の車内放送。これは完全に、車掌さんの語学力に依存する。区間で交代するので、上手い人とそうでない人が露骨に分かる。この列車では主要な母国語がドイツ語、第2のアナウンスは英語だったが、苦手な人は、思い切りシンプルで、next stop Salzburg(次はザルツブルクに止まります)しか言わず、しかも、「ネーヒスト シュトップ」って、そりゃほとんどドイツ語じゃないか。到着時刻、乗り換え、全くコメントなし。これは看板に偽りあり。その代わり、各座席に「しおり」が置いてあり、到着時刻、乗り換え案内が書いてある。細かいことが聞きたければ検札の時に頼めばいい、そういうことか。長々と放送されるのを好まない人もいるだろうし。記念に「しおり」は持ち帰った。もちろん、持ち帰って良いものなのである。

 車内は相変わらずガラ空きなので、昨日と異なり、食堂車に行ってみる事にした。食事時を外して、というより自分自身全然動かないので空腹にならなかったのだが、行くと案の定ガラガラで、どこでもどうぞ、じゃ、ここに座ります。欧州では「メニュー」というと定食を指す。もちろんそんなことを言わずともシュパイゼカルテ(日本語で言うところのメニュー)は持ってきてくれる。海外旅行中最も意思疎通の面倒なのが食事ではないかと思うのだが、つまり食材の名前、調理方法の現地語が分からない。だから一品料理を選んで頼むのは私のような初心者には至難で、このときも定食A・定食Bの2種から、Aを選んだ。ランチであるが、一応簡単なコースになっている。メインは豚肉のソテー。まずは飲み物は別に注文せねばならないのだが、さすがにこれは言葉が分からないということはなく、ビールにする。後で夕食が摂れないかも知れないので、テイクアウトのサンドイッチも頼んでおく。これはウィーン着直前に食べておくのだ。それにしても、昼間からビールということ自体、我々普段の生活からかけ離れているいるが、コース料理を食し、風景を眺めているのは格別の気分である。思えば、「ひかり号の指定席に乗って食堂車でハンバーグを食べる」という夢を叶えて十数年、その頃から比べればずいぶんとスレちゃったとはいえ、旅行の楽しみの原点はやはりこういうところにあるのだなあと感慨しきりであった。きっちりデザートまで食べ、さすがにワインまで行かない所は初心者の警戒心、しかし楽しくほろ酔いで自席(自室)に戻ってきた。

 さて、3日目がずいぶん長くなってしまっている。ここらで前半を終了としよう。天候が悪く、ベストとは言えない行程ではあったが、春から夏などは最高と思われる。ぜひ次回はトランザルピン号の展望車でさらに余裕の旅をしてみたいものだ。



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