01年4月下旬−5月中旬
第3次欧州旅行


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●第3日 01年5月2日(水) プリマス

 プリマスでの公演の日だ。07:00起床、今日もアラームより早く起きた。シャワーの水質のせいなのか、髪がごわごわで寝癖がひどい。準備して、食堂に下りて行ったら昨日よりずっと空いていた。フルーツなどもじっくり選んで、食べることが出来た。グレープフルーツの酸味が眠気を追いやってくれる。
プリマス中心部、どこも余裕の広さ 本日は公演の日だが、それは夜なので午前中はフリーである。ピアノの小川典子さんも一緒に、プリマス駅まで行ってみることにする。小川さんは、チェロのHA君の親戚なのである。プリマスの中心部を通って駅に向かう。市内、なかなかの活気である。ホテル近くのトイザラスなどガラガラで気の毒なくらいだが、あれは場所がよくないのか、中心部の店はなかなかに繁盛しているように見えた。ホテルから駅まではゆっくり歩いて30分弱、といったところで、散歩には丁度良い。ところが駅に着いてみると、列プリマス駅車がいない。ストライキで間引き運転なのだそうだ。英国国鉄は民営化(93年)されて、なんと25社にも分割されたが、上手く行っているところと、そうでないところ、いろいろあるのかも知れぬ。なお、英国の鉄道は日本の手本になっているので、駅の形が似ている。欧州大陸側にはない(TGV、ユーロスターなどの国際優等列車を除く)改札口があり、プラットフォームが高く列車のドアステップをよじ登るような形態ではない。改札を通れないかと思ったら、係員もだれも居なくて、そのまま駅に入ってしまった。間引き運転なので、改札もなぜか記念撮影なにも、列車がいないからやりようがないのだろう。しばらく待っていたらプリマスが終点のインターシティが来たので、それをバックになぜか皆、記念撮影。列車で来たわけでもないのに..ま、いいか。
 駅の見学(?)が終わって、市内へと戻る。昼食はカレーにしようと思う。英国は、過去の経緯からか、カレー、中華料理の店が多く、だいたいどの店も外れがないと聞く。市内で迷って結局、昨日も歩いたバービカン地区まで行き、見つけた。しかし、12時開店。どうも、昨日から12時開店が多い(そんなわけはないだろうが)。時間が来るまで、隣にあるエリザベス期の家を博物館に仕立てた建物を見学する。部屋の大きさ、家具調度、特にベッドが小さく、この地の人も、昔は小柄だったのだろうか、などと考えたりする。
 12時になったので、店に入る。店内は薄暗い。ウェイティングバーのようなところで待たされ、奥へと案内される。個室のようなあつらえの部屋で、ここは天窓があって明るい。注文は、料理の内容がわかりにくいので、適当にする他無し。私は濃いソースと説明のあったブーナ・カリーのプラウン(えび)と、卵入りフライドライスを頼む。さて、どんなものが出てくるか..それで...話が...途切れがちである。注文しても、何も、出てくる様子がない。お茶がやっと出てきて、スタータまでさんざん待って、メインはいったいいつ??これは、2時間くらいかかりそうだ。12時に入って、2時間を要したら、14時の音出しに間に合わない。これは困った。英語に堪能なHN君が急いでくれないかと注文するが、果たして本気になってくれるか心配。しかし、タンドリチキンやケバブなど、いずれも美味しい。ただ辛いだけのスパイシーさではなく、素材の味がしっかりしていて楽しめる。それにしても、営業時間が12:00−14:30で、2時間の昼食では、ようやく出てきた..1組しか回らない。習慣の違いと言えばそれまでだが、我々から見ると、効率があまりよろしくない。日本のカレー屋と比べると、怒られそうであるが..なにせ「16世紀風インディアン・レストラン」らしいので、21世紀の基準で断じてはいけない。とにもかくにも、待ちつづけてようやくメインが出てきた。私の注文したブーナ・カリーは予想通り、どろりとしたソースにピーマンが香ばしい。えびもぎっちり入っていて、ぷりぷりで食べ応えあり。コクのあるソースがフライドライスとぴったりで、これは気に入った。帰国したら、家でもやってみたいものだ。
 時間がなくなってしまったので、後半は詰め込んで店を退出、練習上、出番が後の人に会計を任せて先に帰ってきた。ホテルまで走る、走る。カレーの辛さと、運動で汗だくである。部屋で顔を洗って、ホールに駆け込んだ。間に合った。ウォーミングアップもろくにせず、練習に突入。もちろんこれでは調子は悪い。本番前にこの準備不足はまったく良くないことで、反省しきりである。国歌、ワーグナーとあっさりリハーサルが終わってしまう。まずい。ブラームスが予定前なので、メンバーが来ていない。まさか未だカレー屋にいるわけでは..可能性なきにしもあらず、しかし携帯電話があるでもなく、待つしかない。曲が始まってしまった。しばらくダミーとして舞台上の席に座っていたが、しばらくしてメンバーが来たので、交代した。どうやら、ホテルが隣なので油断して部屋で休憩していたようだ。次以降の公演地ではホテルとホールは遠いので、こういう行き違いは無いだろう。ちょっと、ごたごたしてしまった。最後にグリーグ。再び舞台へ。調子はまぁまぁか。これもわりと簡単に終わった。

 リハーサル終了後、夕食のサンドイッチを食べながらカメラ仲間のNT君と話していたら、なんと、当地でレンズを買っていたことが判明。キヤノンFDマウントのJena Zoom70-210mmF4.5-5.6、日本製の寸暇を惜しんでカメラ屋巡りOEMと思うが、それにしてもツァイス・イエナブランドでキヤノンの交換レンズというのが謎だ。15ポンド、2900円弱で安いので、話のネタにはなるか。他にも面白そうな物件がありそうなので、急ぎ、その店に行ってみることにした。ホールから近いのである。ところが、行ってみると17:10で閉店。中途半端な時刻であるが、それすら過ぎているので、中途半端であることとは関係なく、厳然と、閉店していた。残念である。すごすごとホールに戻ると、会場入り口で私の親がウロウロしていた。今日、演奏会後に夜行列車でロンドンに向かうらしく、スーツケースを持っている。それを、どこかに預けたいというのだ。何だか困った人たちだが、そこは会社の人が親切にも、プレ・レセプションルーム(演奏会終了後、プリマス市や会社のVIPが談笑するために確保されている)で預かってくれることに。本来ならテロなどを警戒してそんな見ず知らずの人の荷物など預かったりはしないはずで、過分な対応には素直に感謝する。それを見届けると、売店でシトラスパンチを買ってホテルに戻った。着替えを済ませ、会場に戻る。お客様はかなり多いようで、全席指定なので入場に手間取っている様子。本番前の舞台袖の写真を撮って過ごす。
 舞台に上がる。客席は満席だ。最初、国歌なので少し明るくしているが、英国国歌が終わって君が代になったら、国歌だと思わなかったのか、暗転してしまった。ま、日本国内でも国歌かどうか議論があるからなぁ、それは関係ないか。英国国歌で、途中吹く場所を直前に変えたのだが、トランペットのメンバーは間違えることなく無事終了。この曲、エルガーが編曲したもので、合唱も入る長大な曲になっている。そこで、1フレーズだけ演奏するためカットを行ったのだが、その結果、トランペットには全く出番がなくなってしまった。それでは寂しいから、というわけで私が他の箇所からトランペット用に断片をつなぎ合わせ、譜面を作っておいたのだ。演奏は成功。次はワーグナーだ。概ね、上手く行った。懸案のパートもあるにはあったが、練習の時よりはすんなり行ったようだ。本番の集中力というのは我々アマチュアでも、未知の領域がある。それゆえ、練習すればもっとよくなると思うのだが..なかなか、理想的には行かないものだ。休憩なく、グリーグに。ピアノを脇から移動して、小川さん登場。真紅のドレスが美しい。どちらかというと大柄で、西洋人に対してもアピール度が高いし、それに技術もある。予想よりはるかに良い出来で(小川さんだけ)、私は1楽章でちょっと日和見が過ぎて失アイスクリームを買う人たち敗、あぁぁ、ノリが悪くて後悔するというのは最低だ。客席の反応は上々。曲も盛り上がるし、何と言っても小川さんの力量は大したものである。
 グリーグが終わり、休憩に入る。会場の熱気がすごいから、でもないだろうが、アイスクリーム売りがいる。普通、コンサート会場では飲食厳禁であるが、聞くと、寄付行為の一種らしい。その列の写真を撮っていると、地元の人に声を掛けられた。まじめそうな人で、話し方が誠実な、英国紳士そのものといった風情(安易な形容だ)。演奏が良かったことをまず誉めてくれて、どんな人か少し身の上を語ってもらった。・・私はプリマスの生まれで、ロンドンで長年働いて最近リタイアしたのです。そう、プリマスには昔、そんなに仕事がな本番中かったんでね。仕事?東芝とは関係ないですよ。偶然、新聞で広告を見てね。家は、ここから20マイル、キロだと32キロかな、車でね。こういう催しはあまりないので、楽しんでますよ。皆さん、こんな立派なオーケストラを作るなんて、素晴らしいですね・・。いやはや恐縮なのだが、誠実な話しぶりに、ついついこっちも話し込んで(というほどスムーズに話せないが)しまった。
 後半、ブラームスは舞台裏で過ごす。客席に余裕があれば、本番の撮影もしたかったが、何せありがたいことに満席なので、舞台袖で聴いているしかない。演奏は勢いがあって全体によかったが、4楽章の懸案の箇所で、ズレてしまった。ここだけは、皆疑心暗鬼になっていて、練習で上手く行ったり行かなかったりを繰り返している。このプログラムはデュッセルドルフでもう一度演奏するのだが、どうなるか少し心配である。

 終演後、即、楽器搬出なので、楽屋口に急ぐ。次の公演地のパリまで、もう搬送が始まるのだ。楽屋口の混乱はすさまじい。すぐ退散。ホテルに戻るところ、親と出くわす。今夜、ソリストの小川典子さんも夜行列車でロンドンに向かうので、決して話し掛けて邪魔しないように厳重に注意する。ところが、後で聞くと駅で小川さんの方から声を掛けてくれたとのこと、気さくで人物が大きいというか、まったく余計な心配であった。着替えて、パーティ会場に行く。猛烈な混みかたである。昨日の朝食どころではない。250人予定のパーティに400人が参加すれば混むのは道理で、地元の方々が多数、来場されたとのことだ。悪く言えば、タダ飲みであるが交流が出来たのだから、良しとするか。欧米のパーティはわりと、最初から最後までVIP挨拶などもなくずーっと話していることが多いらしいが、ここは市助役、東芝相談役の佐波さん、ソリストの小川さんなどが挨拶。小川さんの英国仕込みのスピーチはユーモアたっぷり、会場は大受けであった。演奏も一流なら話術も卓越、羨ましい。
 会場がとにかく混んでいるので、食べ物どころではなく、ビールばかり飲んで酔ってしまった。216号室で開催されているという2次会にも行ってみる。なんと、ここにも地元の方々が。地べたに座って、草の根交流か。小川さんが英国のお菓子を差し入れてくれたらしく、室内あちこちにポテトチップスやチョコレートがある。ポテトチップスは、強烈なヴィネガー味、日本人にも美味しい塩味、そして、全く味がわからないのがエビ味。チョコレートは子供向けとんちクイズ付き、ペンギン印なので、ネタは全部ペンギンだ。「氷の上で履くものは?」→Slippers、なるほど。面白いが、眠くなったので、部屋に戻る。明日はパリへの移動日である。パッキングをして、25時に就寝。


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