01年4月下旬−5月中旬
第3次欧州旅行
●第6日 01年5月5日(土) パリ
今次旅行で初めての、終日フリーの日である。疲れが残っているが08:00起床、地下の食堂に向かう。そう、我々は大人数の団体なので、食堂2つに分かれて食事しているのだ。この点、朝はスムーズで、良質の食事と相まって楽しいひと時になっている。ところが、地下の食堂が準備中だったので、地階の、どうも地下と地階は表現が紛らわしいが−−レストランに行く。幸い、混んではいなかった。地下に比べると明るく、天井が高いのでよろしい。ココアを作り、シリアルを混ぜて、クロワッサンとソーセージと、卵と、大した料理ではないが、選んで取って行くのが楽しい。全ておいしく頂いて、食堂にいたメンバーと今日の予定はどうするか、聞いてみる。特にどこに行くと決めるわけでもなく、とりあえず09:30ロビー集合、とする。メンバーは、KK君、CKさん、SW君、同室のKOさん、別のKOさん(紛らわしいのでKO(V)さんとしよう)、HT君、AI君に私の8名。
09:30過ぎに集合し、さっそくT2(トラム、路面電車)のシュレーヌ・ロンシャン駅に向かう。天気は晴れたり曇ったりで、風が強く、寒い。パリの人はわりと寒がりで、コートを着込んでいる人が多い。我々はさすがにコートまでは持ってきていないので、せいぜいセーター、ウィンドブレイカー程度だ。もうしばらくしないと、暖かくならないのだろうか。駅に着いて、10枚つづりの割引切符(カルネ)を買う。1枚あたり5.8フランで、8フランの区間に乗ることができる。フランは何円だったか、この日記に記録していないので分からないが、だいたい20円弱か、メトロ(地下鉄)は全線8フランだから、安価だ。シュレーヌ・ロンシャンからラ・デファンス・グランダルシュまではT2で3駅、トラムであるが道路上は走らない(ここの区間は)。すぐにラ・デファンスに着いた。ここからM1で市内へと向かうことになるが、一旦地上に出てみる。ここはパリ副都心のような新しい開発地区で、新凱旋門というものがあるのだ。トラムが地下駅に着いたことでも分かるが、ここは鉄道、車道全てが地下を通り、地上は歩道しかないらしい。新凱旋門・グランダルシュはフランス革命200周年を記念して建造されたという。これ、Grande
Archeと書くが、繋げて発音する。外国人には少々厄介な、リエゾンというやつだ。「グランド・アーチ」はどこですか、なんて質問したら、笑われるんだろうなたぶん。しかし、質問するまでもなく、駅から上がるとそれは眼前に聳え立っていた。圧倒的、としかいいようのない建物で、持参の24mmシフトレンズでも撮るのに苦労した。先に書いたとおり、地上は歩道しかないので、何か、シーンとして、妙な空間だ。風が強く、寒くて涙が出てきた。早々に地下に戻ることにする。
KO(V)さんがガイドブックを貸してくれという。以前パリに来た事があるらしいが、いろいろ確認したいらしい。貸したら、ずーっとガイドブックに没頭している。こういうのは本来、狙われて危ないのだが、とりあえずこちらも8人の団体なので、その中にいれば多少は安全であろう。それにしても、パリ初心者からガイドブックを借りちゃ、いけません。とはいえ、私は街歩きしながらガイドブックを見ることは全く、ないので特に問題はないのだけど。今日の目的地も、予め地図で確認し、最悪の場合でも歩いて帰るくらいには経路を覚えている。ガイドは、食事しながらの話のネタ程度にしか使わないのである。
M1でまずコンコルドまで行く。地下鉄は運転が雑で、急加速・急制動の連続だ。ドアは止まらないうちから開いてしまう。このドアの特性を利用して、スリ集団は逃げるのかも知れぬ。ドア付近に独り立っているのが危険だということを実感する。コンコルドまで10駅で、駅間が短いにしても、時間はかかる。荒い運転に閉口して、ほうほうの態で地上に出た。朝は少し晴れていたが、今は完全に曇ってしまった。チュイルリー庭園をルーヴルの方向に歩く。今日は風が強く、砂を巻き上げるので、歩きにくい。広大な庭の先に、ルーヴルの建物が見えてきた。この建物も高さはないにしても、両翼は手前に長々と突き出ていて巨大である。中央に、賛否両論とされるガラスのピラミッドがある。ここから地下に入って入場受付なのだが、やはり周囲に比べて浮いている感は否めない。その、ピラミッドから手前、ドノン翼の方に長い列が出来ている。今回の旅行では、出演者以外、つまり同行の家族などは昼間リハーサル中に観光をしていて、昨日の情報によると市内各美術館はストライキで閉館していたらしい。不安に思うが、意外にも、列が進むのでどうやら入場出来るらしい。ピラミッドの前に来たら、ストはやはりやっていて、赤い横断幕が出ている。「レダクシオン・ル・タンプ・ドゥ・トラヴァーユ」と大書されている。労働時間の短縮、である。そういえば昔、日本で女性向けの求職情報誌の名前から、転職することを「とらばーゆする」などと言っていた時期もあったように思うが、travailは、転職ではない。余計なお世話だが、こういうヘンな流行語、私は嫌いなのである。で、そのストの争点は、週35時間労働であった。つまり7時間/日。政府回答(そう、ここの職員は国家公務員だ)は36.25時間、7時間15分/日。争っている時間が、日本とは次元が違っている。主張のあらましを綴ったビラを配っていて、読まずに鞄にしまったら、配っている人になぜ読まない、と怒られた。いや、キミに主張する権利があることを認めるには吝かでないが、当方には、早く美術館に入りたいと希望する権利があるのだよ、くらいの仏語会話ができればなぁ(勉強していないのだから、無理)。後で読んだけど、よく考えたら外国人観光客が趣旨に賛同しても、仏政府への影響は皆無だろう。
ピラミッドに入って、セキュリティチェック。美術品を傷つけるものを持ち込んでいないかのチェックだ。カメラについては何も言わない。ここからエスカレータを下るとチケット売り場なのだが、今日のストは閉館ではなく、フリー・エントランスと書いてあった。要するに、タダで見られるわけだ。当方としては、ありがたい(?)。12:30、昼食を約し、ここで一旦解散。
私は独りで回ることにする。ほとんど美術に関する知識はないが、とりあえずフランドル派(リシュリュー翼)から回ってみる。ルーベンスの部屋が圧倒的である。というより、大作はどれも圧巻なのであるが、絵画の成立背景を知らないと、楽しみも半減である、特に宗教が関係すると、厳しい。絵はどこも見やすい展示になってはいるが、大きなものはどうしても照明の反射が入って上の方が見にくい。場所を変え、見上げる角度を変え、何度も見る。フランドル派だけで1時間以上かかった。これは、3日通っても全部見られるかどうか。今回フリーは1日だけだし、次回以降の課題にしよう。なお、私はあまり遺跡や宝物関係には興味がなくて、絵画だけに絞るつもりだ。シュリー翼のフランス絵画は早足に回って、ドノン翼、フランスの大作の部屋に。ダヴィッド「ナポレオン1世の戴冠式」、ドラクロア「民衆を導く自由の女神」など、教科書でもおなじみの作品がたくさんある。日本の美術館のように人だらけではないが、「ナポレオン1世・・」あたりはさすがに人が多かった。それでも、じっくりを眺めることができた。これだけでも、一日の鑑賞としては十分だと思う。写真は、24mmシフトレンズで撮った。大作も、上すぼまりにならずに撮れて、実に便利だ。フラッシュは不使用である。過去の旅行記でも書いているが、絵を傷めるかどうかはともかく、あれは周囲に迷惑だと思う。しかし皆、バシバシ光らせている。係員も何も言わない(ストだから?..違うか)。それどころか、呆れたことに、ルーヴルの売店が、フラッシュ付きの「写るんです」を売っているのだ。まぁ、そのへん、どーでもいいんですかねぇ。そういえば「写るんです」って仏語でなんて言うのだろう。いっそ記念に買ってくればよかった。
ここらで時間が来てしまったので、というより、正確には12:30には遅れて、エントランスに戻る。しかも、トイレに行ってさらに遅刻。申し訳ない。美術館のレストランで昼食。カフェテリア形式で、好きな料理のところに並んで、トレイに並べていく。時間が時間なので、列は長く、なかなか進まない。パンを取って、パスタのコーナーでラザニアを注文。付け合せは何?と聞かれ、コーンと答えたら、コーンを山盛りにされた。他の種類(にんじん、ほうれんそう、ポテトなど)も含めて、注文できたらしい。コーン1種類だけなので、大盛りにしてくれたようだ。日本の某居酒屋で出てくるバターコーンの2倍はあったと思う。ラザニアもパスタが厚くて食べ応えあり、ソースもくどくなくて美味しい。しかし値段はそれなりで、70フラン、1400円くらいかかった。食後、解散となる。ガイドブックはKO(V)さんからCKさんに渡る。大活躍で、ガイドブックも嬉しいに違いない。
ここからまた単独行になる。いやここからこそ、単独行にすべきなのだ。つまり、ここから少々歩くことになるが、ボーマルシェ通りに行くつもりなのだ。つまり、ここはカメラ屋街である。セーヌ川沿いに、ポン・ヌフ、ノートル・ダムまで歩く。私は早足(だいたい6.5km/h)だが、寒くてますます急ぎ足になる。川沿いに怪しげ(失礼)な古本屋が立ち並んでいる。これで商売になるのか、他人事ながら気になる。ぼったくられそうなので、覗きもしなかった。ノートル・ダムの前は人ごみがひどくて、近寄りがたい雰囲気。2枚ほど撮って、立ち去る。バスティーユまではけっこうな距離で、体が冷え切ってしまった。ボーマルシェ通りには情報どおりいろいろカメラ屋があって、見ていて楽しいか、というと、実はそんなに楽しくなかった。これも情報どおり、モノがないのだ。インターネット時代で、良いものはどんどん、店に並ぶ前に売れてしまうという。特にフランスはその傾向が顕著だと、出発前にあるカメラ店主から聞いていたが、その通りであった。あっても、高くて手が出ないものばかりだった。ここは、完全に空振りに終わり、すごすごとバスティーユ駅まで戻ろうとしていたが、先ほどから気になる集団が見え隠れしている。手ぶらの少年が3人、ずっと後をつけて来ているのだ。カメラ屋のショウウィンドウに姿が映っているので、もしスリ集団だとしたらかなり間抜けであるが、振り返って目を合わせたら脱兎のごとく、逃げていった。やはり、よからぬことを考えていたに違いない。カメラ屋街だから、カネを持っている人が多い、と見るのは結構だが..
バスティーユ駅に着いた。地下鉄の切符を買わなければならない。ここはハイテク式(?)の自動販売機で、ジョグダイヤルを回して、種類などを選ぶ、外国人にはとっつきにくい券売機がある。これはフランス人にも珍しいのか面白いのか、課外授業と見られる先生と生徒数人(課外授業、ここでもロンドンでも頻繁に見かけた。最近は日本でも多いらしいが)がワイワイ騒いでいる。切符は先生がまとめて買ってしまい、生徒は不満そうである。先生が改札に向かおうとしても、動かない。先生ここで一喝、アレ、アレ!(どけ、どけ)、後ろのムッシューが切符を買えないじゃないか!ん、ムッシューって、私か?。本場の「ムッシュー」を聞いて、ちょっと嬉しい私。こんなつまらないことで喜んでしまう私は安上がりな奴だ。生徒が去って、切符を買う。片道切符を1枚買うだけなので、別にどうということもなかったが、と言いつつやはり英語メニューを選択してしまった。改札を入ったらNT夫妻とSちゃんがいた。NT君も実は、カメラ好きなのだが、同様、収穫が無かった由。家族同伴だったという事情もあるかも知れない。バスティーユからラ・デファンスまではM1で1本、しかし駅は17駅もあって長い。駅ごとの乗客の入れ替わりが激しく、混んでいて身の回りには注意が必要だ。老夫婦とか、家族連れらしき人たちが多くいる場所を探して立っていた。現金は100フラン(2000円弱)しか持っていないので、盗られてもほとんど実害はないが。今晩のディナーパーティは前払いしてあるし、レストランまではバスで往復、現金はもう要らないのだ。しかしカメラは困る。
ラ・デファンス・グランダルシュに着いてやれやれ、あとはT2で3駅だ。T2はガラ空き、3駅なので座らないでいたら、通路中央、天井から床に突っ立っている棒の周りをぐるぐる回って遊んでいる女の子が、私の前でピタっと止まって言う。ねーねー、席空いているのに座らないの?ぐるぐる・・ピタッ。ねー、空いてるのよ。ぐるぐる・・。キミね。そういうキミは、座っているようには見えないよ。ああ、やっぱり仏語会話勉強しておけばよかった。身振り手振りでキミこそ座れと言う。いーの、あなた、座りなさいよ・・ぐるぐる。いいかげんうるさいな、と思ったら、遠くにいた母親がこっちに来なさいと怒鳴って、寸劇のような会話が終了した。シュレーヌ・ロンシャンに着き、雨が降り出していたがホテルは近いので、問題はなかった。近くのケーキ屋でアップルジュースを買って帰った。
パーティへの出発は19時で、まだ2時間以上あるので、洗濯をして眠ることにする。寒い中歩いていたので、ベッドに横になるだけでありがたい気分だ。ぐっすり眠り、18:30に起き、下に降りた。夜間、集団で地下鉄での移動は問題もあろうから、ということでバスでレストランに向かう。ポルト・マイヨー近くの、ル・オーベルジュ・ダーブというレストランで、生カキとサーモンが出るらしい。貸切ではないようで、店の3分の2くらいのテーブルに、着席する。パーティというより、夕食会と言う方が正しい。同席はTKさん、AYさん、SW君。早速生カキとエビが氷の上に盛られて出てくる。カキは日本で食べるものに比べると少し小ぶりであるが、生臭さがなく、おいしい。AYさんは貝類が苦手ということでフォアグラにオーダーを変えていたので、それをひとかけらもらう。こってりとしていて味わい深いが、これはカケラで十分だ。ワインは選べず予め決まっていた(選べと言われても選べるほど知識もない)。2000年と新しい白であるが、甘過ぎず、爽快な味でカキに合っていたと思う。遠慮して1本で満足していたが、後で聞くと何本もお代わりしたテーブル(元々10人くらいの大きなテーブルだったが)もあったらしい。メインのサケはミデアムレアのような焼き加減で、とろけるような食感、味も濃厚で、驚く。デザートはイチゴのタルト、イチゴの酸味が程よく、味覚がまた呼び覚まされるという感じだ。最後にビターのチョコレートと、エスプレッソで締めくくった。非常に、楽しめた。普段こんな食事をしないので、「非常」に実感がこもっている。同席したSW君のミノルタTC-1が故障、今回欧州に来る前に点検してもらったばかりだという。それならボーマルシェ通りに一緒に行けばよかったが、仕方ない、明日からしばらく、私のHexar RF+Ultron28mmF1.9を貸すことにする。明日は終日、デュッセルドルフへのバス旅なので、カメラを買いに行く時間はない。
帰りは、エッフェル塔にでも登って帰ろうと相談し、バスを使わない旨連絡していたが、会計に長々と時間がかかり、待っているうちにもう帰った方がよいということになった。聞くところによると、現金で支払いなので、小額紙幣を別室に篭って店員と数えていた由、パーティ担当のHN君には、災難だったろう。バスはホテルへの帰り、わざわざエッフェル塔の近くまで遠回りしてくれた。降りるとき、仏語で丁寧に礼を述べておいた。
適度な酔いが心地よい。部屋に戻り、何もせずすぐ眠った。
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