09年4月下旬−5月中旬
第4次欧州旅行
●第3日 09年4月26日(日) フランクフルト→ヴィーン
朝4時くらいに目が覚めてしまった。2時間弱しか寝ていない。窓が全開なのに気づく。もう一度眠るが、断続的に何度か起きてしまった。8時に起き出して朝食室に行く。メニューは昨日と同じだ。時刻が遅いのと曜日のせいか、TVは対談番組などをやっている。そういう点では日本の日曜と似ているが、対談のテーブルにサンドイッチなどが山盛りになっているのが変わっている。よもや話しながら食べるわけにも行くまい。
部屋に戻り、ヴィーンでの宿への交通手段を確認する。mixiにちょっと書いていたら10時近くになった。出発の時間である。チェックアウトして駅に。ICE25はドルトムント始発なのでこの駅には長くは止まらない。入線する姿を見て、指定の28号車に乗り込んだ。28号車といっても、その数の車両があるわけではない。フランクフルトからは21号車を先頭に、25号車を除く28号車までの7両編成で運用されている。うち最後尾の28号車と、27号車の一部が1等車、26号車が食堂売店、残りは2等車である。私の席は28号車の26番、車内に入ったらドイツ人のおじさんが既に座っていた。予約券を見せてどかせる。席の上に電光掲示板で予約済み区間が表示されているのに、どうして見ないかねえ。もっとも、このおじさんは持っている切符自体が有効ではなかったようで検札のときに追加料金を取られていた。ヤレヤレ。
さて、そうしてどかせた席がいまいちなのである。まず、くだんのおじさんと向かい合わせになる4人席の中の一つであり、進行方向と逆。どうも苦手だ。車掌がきて、コーヒーかお茶どう、というのでコーヒーを頼んだら有料だった。しかも2.9ユーロ、やられた..座席は革張りで、意外なほどに小さい。足元のスペースもたいしたことがない。何より、大型荷物を置く場所が少なすぎる。まあ、新幹線なんて荷物用スペースは全然ないからこういう列車は仕方ないのかな。座席が狭いと書いたが、後で2等を見に行ったらもっと狭かった。なんだか合理性を追求するあまり退化してないかと思う。
ところで、ICE車内では携帯電話での通話は禁じられていない。一部、禁止の座席があるがそれは列車の端にある数列の座席に限られているようだ。こういう状況であるから、電話をマナーモード(これ、和製英語だろうな)にする人は居ないようで、車内のあちこちで着信音が鳴り、大きな声も聞こえる。着信音を着メロ等でカスタマイズする人は少ないから、ノキアの決まったメロディが何度も流れる。ビジネス客の多い時間帯の、静かな新幹線に慣れているせいか、ちょっとうるさい気がする。いっぽうドイツ人は新幹線の車内は不気味だと思うかも知れない。
列車はICEの専用線以外はそんなに速くない。フランクフルト−ヴィーン間740kmを7時間1分だから、平均すると時速105kmくらいなのだ。車窓風景は、ハナウまでは単調でこれは市街の多いところを通るからだろう。ハナウを出てしばらくすると山の中になり、速度が落ちてしまうものの風景はきれいになった。山間の集落が美しい。その風景もつかの間、ヴュルツブルク手前になると新しい線路を引いたのか、トンネルだらけになってしまった。ヴュルツブルクから1時間ほどでニュルンベルクに着く。ここの町並みもきれいだ。一度行ってみたいところだが、今回のような長い旅行をしてしまうわけだから次はいつになるだろうか。ここで乗客がかなり入れ替わり、というより乗る人が多く満席近くになった。時刻は12時半、乗ってきた人たちが落ち着く前に食堂車に行くことにする。幸い、席があったので1人席が向かい合わせになっているところに座る。メニューは..高い。スープだけで4.9ユーロ、グラーシュ(肉と野菜(パプリカ主体)の煮込み)が14?ちょっとねえ。定食で18も払うのはいやなので、ミートスパゲティとサラダ、ベックピルス(ビール)を注文する。これで〆て12ユーロだ。1等に乗っておいてケチるなとも思うが、まあこのあたりが許容範囲だろう。食事はなかなか美味しい。ビールもきっちり泡を立てているし、そこらへんはさすがだ。
元の席に戻る。1等は結局満席でもなく、私の隣は空いたままであった。しばらくしてレーゲンスブルクに着く。座席表示によると、私の向かいにはレーゲンスブルクから終点までの予約が入っている。男女のカップルかと思ったら、中東系の男2人だった。中東系だからどうというつもりは全くないのだが、どうもこの2人の振る舞いが気に入らない。2人ともうるさいし、1人は激しく咳き込んでいる。挙句に靴を脱いだ足をこっちに投げ出してくる。パッサウでガラガラになったのを機に、私が別の席に移動した。中央部付近に移動したら揺れも減って良かった。
パッサウは独墺国境の駅だ。ドイツ人たちはほとんどがここで一斉に降りたのだが、何かあるのだろうか。オーストリア側に入ると、景色はより田舎の雰囲気になり、家々が点在するようになった。少し居眠りする。
遠くにアルプスが見えてきた。なかなか正面に見える角度になってくれなくてやきもきした。しかも、オーストリアでは、家が近い箇所では騒音対策で壁を設置している。これが邪魔で景色が見えない。とはいっても、近隣の人にとっては、日常生活に直接関係ない超特急が走るのをただ我慢できるかというと答えは自明なのである。それは仕方がないと思う。
列車は加減速を繰り返す。速く走れる区間とそうでないところの入れ替わりが激しいのは在来線を利用した高速運行ゆえだろう。時速200kmで走っているところを動画に収めようとしたら、すぐ減速したりして..こりゃ運転手さんは忙しいだろう。1等車は車内サーヴィスでガラスや陶器の容器で飲み物を出すのだが、この加減速のために前のほうでグラスを落とす音が聞こえた。うーん、ちょっとやりすぎでは。見たところいろんなところで新しい線路を作っており、おそらく高速で走るために改良しているのだろうが、そうすると壁の高い区間を増やすことになってしまうような気がしてならない。観光客の立場からみると、難しいところだ。
ヴィーン西駅が近づいてきた。かなり手前から徐行運転なのは前に来たときと同じ。といっても15年前に1回だけだから単なる偶然かもしれない。西駅はガランとした駅だ。コンクリートの色が白っぽくて味がないというか。大きな天井がないのはこの手の駅では少ないのではなかろうか。あまり写真を撮る気もせず、すぐに地下鉄U6に向かう。ここから4駅でフィラデルフィアブリュッケ。そこでSバーンのマイトリンク駅に地下でつながっている。目指すホテルはマツラインスドルファ・プラーツにあってメイトリンクからは1駅。しかしSバーンはいろんな行き先があって分かりにくい。まあでも、東京駅から品川に行くのに、蒲田、鶴見、桜木町、磯子、大船行き、あるいは山手線のどれにのるべきか、って外国人には難しいわけで、それと一緒だ。ただし、ドイツでもここでもそうだが、隣の駅が何であるか、その表示がない。それさえあれば路線図で方向がすぐ分かるのだが。熟考を重ねて、これだ、と乗った列車で合っていた。ほっとした。
駅からホテルはすぐだった。道路を渡るだけである。くたびれた外観の建物、狭い出入口。安かった(1泊38ユーロ)から仕方ないか。受付でアフリカ系の2人が何か交渉している。すごく時間がかかる。うち1人が英語のみ、もう片方がドイツ語のみ、で説明に時間がかかるのと、ご本人たちが何やら決断しかねている(料金だろう、結局部屋はあったわけだし)ので時間がかかってしょうがない。私はひどくイライラした。今晩、楽友協会で演奏会を聴きたいのだ。ようやく終わって、私の番。昨夜のネット予約で無事確保されており、鍵をもらえた。そういえば先の2人は現金前払いだったが、私は後精算。これはちょっと差別っぽい感じがする。
部屋は405号室。天井が高く、広々とした感じでなかなか良い。窓の外は大通りでかなりうるさい。このホテルは角地にあり、大きな交差点に面している。鉄道をまたぐ橋から交差点につながっていて、交差点の形が複雑で信号を見間違える人が多いのか、クラクションが頻繁に鳴るのだ。まあ、寝るだけだし、私はそういうのがあまり気にならないので良しとしよう。
コンサートなので、荷物はコンパクトカメラだけに絞る。他はPCも一眼レフも金庫に入れたいのだが、これがやっかいで、説明が一切ない。試行錯誤して何とか使い方を会得した。中に入れて開かなくなったら困るので、空のまま3回練習してから入れた。
マツラインスドルファ・プラーツ駅の地下にトラムの駅がある。乗るのは1番か62番。62番は国立歌劇場行きだから私のような者にはちょうど良い。ホテルを選んだ理由の一つだ。ほどなくして62番が来たので、乗り込んだ。切符は西駅で72時間フリー乗降のを買ってある。楽友協会に行くには終点一つ手前のカールスプラーツで降りればよい。10分くらいで着いた。ちょうど信号も青なので、さっさと渡り楽友協会に。コンサート開始まであと10分。裏手というか横か、チケット売り場に駆け込んで、今晩のチケットある?と聞いてみた。すると、平土間の9列目なんてどうですか、ときた。そこはなあ、それに70ユーロだし。バルコン・ミッテは既に完売、バルコン・ローゲ(サイドにあるバルコニー)なら33ユーロ、それにしよう。
本日の演奏会は以下。
・メンデルスゾーン/フィンガルの洞窟
・シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
・ショスタコーヴィチ/交響曲第6番
Vn:ヒラリー・ハーン
指揮:ヤコフ・クライツベルク/ヴィーン交響楽団
フィルハーモニーは昼間の公演だったのでこれになったわけだ。ヴィーン響を生で聴くのは初めてだ。
さて、座席だが、右側6のバルコン・ローゲ、2列4番。チケットに「視界が限られています(Sicht eingeschraenkt!)」と書いてある通り、舞台は半分も見えない。何しろ舞台真ん中に居るはずの指揮者が見えないほどで、指揮者が入退場するのも、振るのも全く見えないのだ。ちなみにVnのソリストは頭だけかろうじて見えた。ま、曲は知っているものだし、間違って拍手することもないから指揮が見えなくてもいいや。
それより、15年ぶりの楽友協会である。TVで見るときはド派手な装飾に目が行ってしまうが、いや、現物も確かに金ぴかではあるのだが、実際にその場に居ると少しくすんだ金色で、案外すぐ見慣れてしまう。この、ただの箱のようなホールがなぜこんなにも音が良く、愛されているのかはよく分からない。日本でもこういう形のホールはあまた出来たが、なかなかこうは行かないものだ。
演奏は、まずメンデルスゾーン。全般にゆっくり目でじっくり聴かせる感じだ。弦楽器の、厚みがありながら澄んだ音に驚く。管楽器は甘くてきれいだし、もちろんフォルテシモではきっちりと音を立てて各楽器の役割を果たしている。先日、自分は他のメンデルスゾーンの曲でひどい演奏をしたばかりなので、美しい音がよけいに染み入る。シベリウスだが、ソリストは上手いとは思うが、個人的な好みだと、ヴィヴラートの幅がやけに広く、速すぎ、正確すぎる。正確なのはいいじゃないかと思うかも知れないが、どこでも同じヴィヴラートに聞こえてしまうのだ。ヴィヴラートだけが音楽ではないが、どうもこれは気になった。長い拍手がかかり、ソリスト一人でやったアンコールのバッハも、短い音でもきっちり細かくヴィヴラートをかけていた。それはやりすぎだと思う。
メイン曲のショスタコーヴィチだが、これは名演だった。ソリスティックな部分と全員強奏の一体感、はかない弱奏、非常に繊細で神経の行き届いた演奏だった。ラッパの人、甘くて溶ける音だけど、厚い弦楽器の上に乗っかるソロの存在感もばっちり。上手い。
アンコールは無し。左右のバルコニーの人たちは総立ちだが、これは演奏が良い悪いという以前に、舞台が見えないからもう立つしかないという状況でもある(いや演奏も良かったが)。Vn協のときなんて、3列目(左右バルコニーでは最後列)は立って聴いていた人も居たくらいだ。まあしかし、オケの姿はなくても楽しめた。良い演奏だった。
終演後、国立歌劇場のほうまで歩き、ソーセージを売るスタンドでカレー・ヴュルスト(太くて長いソーセージ、カレー粉をまぶしたもの)を買って食べた。トラムが来るまでの時間つぶしだが、疲れたし、これで夕食ということにした。
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