09年4月下旬−5月中旬
第4次欧州旅行
●第22日 09年5月15日(金) バーゼル
朝食はチーズの種類が多くて、自分で切るので少々緊張した。でも上手く切れた。クロワッサンが美味しい。
今回の旅行の一大イヴェントが最後にある。それはエッガーという楽器工房訪問である。ここに、クラシカルタイプ(概ねベートーヴェンくらいの時代の形状)のベルをもったトランペットを注文していたのだ。むろん、ヴァルヴなしの楽器。管はEs・D・C・B・Aのクルークつき(A=440Hz)。
旅も終盤なので疲れて寝坊する可能性を考慮し、訪問時刻は11時でアポイントを取っていた。工房へ行くにはSBB駅でトラムを乗り換えるが、それほど遠くもない。工業団地の中なので、交差点に大きなトレーラとかが突然顔を出したりするので少々怖いところもあった。
工房に着いた。仕様のやり取りをしていたのはローザさんという工房の主の奥様。実際の楽器の担当者はガータさんという大柄な男性。明るくて誠実そうな人だ。11時のアポイントは、楽器を試すのに1時間もかからないだろうという予想で決めたのだが、しかし結局、試奏には2時間もかかった。まず3つのベルの中で選び、リードパイプ、クルーク、ヤードの順に3種ずつ試して決めていった。C-D-Es-B-Aの順に全部。吹いてみて、リードパイプの影響がかなり大きいのに驚いた。クルークも音の抜けや音質に影響あり。ヤードはまずオクターヴの補正孔を確認、その後ファを出すための補正孔の音程が大丈夫かをチェックしたが、ファの穴はものによっては若干低かったりする。手作りゆえの誤差だろうか。他にも2つ穴があるのだが、これらはそんなに使わないので、全体の鳴りに影響がなければあまり気にしないことにした。一番長いA管がけっこうちゃんと鳴るので、そのうちシューベルトのグレイトをやりたいものだが実現するだろうか。他に、マウスピースもいろいろチェックしたが、現状慣れているものが一番良さそうだった。ガータさんは、昼食時間帯も私が何か質問や支援を要する可能性に配慮してくれて、何かあったら工房の窓から外に声をかけてね、たぶんそこらへんに居るから、と言い置いて食事に出かけていった。
2時間吹き続けでクタクタになった。ガータさんを呼んで、選んだ管などを指定し、さらに管の抜差しの固さ調整もお願いする。最終仕上げのために2時間を要すとのことだったので、13時過ぎに工房を出て、もう一つのイヴェント、楽器博物館に行くことにした。
トラムで市内に戻り、中心部の停留所で降りて、坂を登っていくと楽器博物館がある。前回バーゼルに来たときは16年前、そのときは休館日で見ていないし、そもそもこの場所になかった(96年に開館とのこと)。高台から街を見下ろすと茶色い屋根が連なっていて美しい。
さて楽器博物館だが、今回の旅行で見たヴィーン、ライプツィヒに比べてもすばらしい充実度だと思う。地元の楽器、という展示があるのもいい。音のサンプルが聴けて、しかも展示室は元刑務所で、音を聴いても隣の部屋への影響が少ないというメリットがあるのもいい。ライプツィヒでも同様にスピーカから音を出すのだが、ライプツィヒは部屋が大きいので、一人が音源を聴くと、大きな部屋の全員がそれを聞く事になってしまう。展示物と違う音が気になる客もいるのではないかと思う。もっとも私が行ったときには客は私一人ったから影響なかったのだが..さておき、バーゼルのサンプルには地元の市の音楽隊の演奏があってこれが味ありまくりの音程・吹き方でいいわこれ。つか、博物館級の楽器を現役で使っているのかねえ。それに比べ、ナチュラルトランペットの演奏にエクルンドを採用しちゃ駄目でしょ。あれは上手すぎてナチュラルに聞こえない。
どんな楽器があったかはいくつか写真を載せておこう。
楽器博物館で時間を使いすぎた。慌てて工房に戻り、楽器を受け取って、スイス出国時の手続きを教えてもらう。私の場合鉄道でフランクフルトまで行くので、バーゼルSBB駅からぼんやり移動すると税関を通らずに行ってしまう。そうするとエッガーさんが付加価値税を取らずに商売しているということになってしまうので、ちゃんとEU外の人に売ったということを手続きしなければならない。国境はバーゼル・バーディシャー駅なので、そこの税関での書類を作成した(実際にはほとんど係官がいないので、書類をポストに入れることになる)。こんなこともあろうかと、宿はバーディシャーのほうが近いのだ。ホテルに戻り、パスポートと切符と航空券のコピーを入れて完成だが、そういえば、コピーってどうすりゃいいんだっけ、とひとしきり悩んだ。日本ならコンビニに行けばいいわけだが、しかしここにはそういう店がない。日本にいるときはホテルでコピーする人なんているんかいなと思っていたが、自分がそうなるとは予想していなかった。
工房からは、後で写真撮って送ってくれとリクエストを受けた。工房の壁に顧客の写真を並べる計画があるそうだ。試奏に立ち会ってくれたガータさんが「ここにはうちのカスタマーの写真が置いてあるんだ」と言いつつ最初に手にしたのはゴットフリート・ライヒェの肖像画(バッハの時代のトランペット奏者)。ちょっ、それ違うでしょと笑いながら突っ込んであげた。飾るという写真には世界レヴェルの奏者のものもかなりあり、
そんなところにアマチュアの奏者を並べていいのかねと思いつつ、写真を送ることを約束した。そうそう、そんなことよりガータさん、あなたの写真も撮らせてと言い、そこらにある楽器を手にして撮ったのがこれ。
ガータさんにしても、ローザさんにしても、丁寧で親切この上ない対応で恐縮というか感激した。仕事の隅々にまで目を光らせるプロフェッショナルとはこういうことなのか。自分はこういう仕事をしているだろうか、ちょっと自信が無い。
ホテルに戻り、明日の出発の準備などをして、その後日本の家族とskypeで話して寝た。息子の声がかなり変わっている。成長しているのだなあ。
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