09年4月下旬−5月中旬
第4次欧州旅行


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●第4日 09年4月27日(月) ヴィーン

 7時半に起床。天気は良いが風が強く、少々肌寒い。昨夜洗濯しておいたシャツや下着はほぼ乾いている。湿度が低いと、手で絞った程度でも乾燥は早い。靴下はヘヤドライヤーを少し当てておいた。これも午前中には大丈夫だろう。このホテルの朝食ありがち
 部屋でぐだぐだして、8時半に食堂に向かう。このホテルは朝食室ではなくレストランだ。普段レストランとしても営業しているようで、ハムだけではなくスクランブルエッグやベーコンなど、温かいものも用意されていた。サラダもあるし、パンのコーナーにはカステラのような甘いタイプのものもあり。飲み物のコーナーにはコーヒーに混ぜるためか、チョコレートなどもあった。ゆっくり食べて、9時ごろに部屋に戻った。

 今日はすぐにホテル外観部屋を出たくない気分である。追加で洗濯をし、PCで日記をまとめたりして、結局11時頃にホテルを出た。出掛けに、受付で滞在を1日延ばしたいと希望。元々明日出るつもりだったのだが、今日は月曜で、一部の博物館(例えばハイドン記念館)は休みなのだ。これでは来た意味が薄れてしまう。今日は曜日が関係ないメジャー施設に行き、明日明後日で他を回ろう。実は先ほど書いたハイドン記念館は火曜も休みなので、1泊追加した上、最終日の午前に回るしかない。次のプラハへの移動は15:58発だからそれも可能だろう。

 市電でカールスプラーツに出て、楽友協会でコンサート情報の冊子をもらう。インターネットで見てから行こうと思っていたのだが、肝心のそれがホテルではつながらないから、やむを得ない。今晩はマーラーの6番、シュターツカペレ・ベルリンの演奏会か。マーラーは最近あまり気乗りがしないので、オペラにするかね。国立歌劇場は「フィデリオ」で、これも個人的にはあまり好きではない。ホテルにあった「ヴィーン・プログラム」という市内で開催される音楽や演劇などのイヴェントをまとめた小冊子によれば、コンツェルトハウスでヴィーン室内管弦楽団という団体がハイドンとメンデルスゾーンをやるとある(曲名は未記載)。そちらのほうが面白そうだ。演目は確認しておかねば。
 オペラを通り、シュテファン教会のほうに歩く。楽友協会あたりではほとんど人通りがなかったのだが、ここはさすがに観光名所につながるところ、人だらけである。教会の周りはものすごい人混みだった。そして、どうにも気になるのは歩きタバコ。朝の川崎駅周辺といい勝負。ドイツもオーストリアも、歩きタバコはまだ多い。
 教会は修復中だった。15年前に来たときもやっていたのだけど、ずっと続いているのだろうか。王宮の方角に歩く。スペイン乗馬学校から先、新王宮のほうには何故か抜けられない。見ると、軍隊が行進しているようで、何かイヴェントをやっている。仕方ないのでそこから左手にぐるっと回って向こう側に出ることにした。目指すは楽器博物館だ。美術史博物館は本日は休みだから、私にとって、この地区では楽器にしか興味はない。博物館に入る前に、軍隊の行進を見た。ひょっとして衛軍楽隊兵交代式だったのか?(そんなのあったっけ)。しかし行進の脇に偉そうな人とプレスのカメラマンがいたので、普通のイヴェントとは違うようにも思われる。そもそも、衛兵交代式のために警察やMPを動員して交通規制をかけたりはするまい。ところで、行進している軍楽隊だが、あまり上手くない。オーストリアなんだから楽器が出来る人ならいくらでも居そうなものだが。トランペットはやっぱりロータリーヴァルヴだった。様子をコンパクトデジカメの動画に収めていたら、後ろから交通整理係(?)の軍人さんに肩を叩かれた。軍旗を持った人たちだけ、なぜか歩道の上を歩いてきたのだった。

 結古楽器博物館へ局何だったのか分からないまま、古楽器博物館に入る。前にはなかった音声ガイド(英語)つきで8ユーロ。写真はフラッシュを使わなければOKというのが嬉しい。部屋での並べ方は前と変わったかもしれない。主な作曲家の年代ごとに楽器を分けたようだが、これは前からそうだったのかも知れず、15年前にはそういう見方をしていなかっただけかも知れないから、変わったかどうか確証はない。音声ガイドは巨大な携帯電話のようなもので、展示番号を押すとその楽器の説明(一部は楽器の音も聴ける)が流れる仕組みだ。携帯電話と書いたのは、あのアンテナの(電波の強さ)表示があったからだ。なかなか説明が詳しくて良い。トランペットの種類は15年前と同じように思えた。しかし一応全部写真には撮った。自分でも古楽器のレプリカを吹くようになったから、マウスピースやベルの形に興味があるので、それも撮っておく。写真撮影可能と言っても、ショウケースがあるので厳密な写真は無理だが。
17世紀 ニュルンベルクのトランペット 16世紀 アントン・シュニッツァー作 これもアントン・シュニッツァー作 マウスピースも撮る 記念イヤーですから キートランペット
展示の印象は少々雑多な感じ ベートーヴェン少年 マリア・テレジアが王宮音楽隊のために購入したとか 工芸品とも言えましょう ベル部分も装飾が美しい

ビールももちろん 何やかやで2時間くらいはここに居た。いま14時半近くだ。シュテファンプラーツ付近に戻り、ふらふらして思いつきでレストグラーシュランに入ってみる。カフェではないが、ちょっと薄暗くてヴィーンっぽい(勝手な定義)の店だ。お昼時を過ぎているので店内には数人しか客はいない。試しにグラーシュを注文してみる。元々ヴィーン料理ではなくて、ハンガリーのものだと聞くが、ここヴィーンでも、先日のフランクフルトでも店先の看板に書いてあるのをよく見かける。パプリカを乾燥させた粉がベースになったドミグラスソースっぽい感じの、牛肉煮込みといったところか。非常に濃い味で、一緒についてきた小麦粉を蒸した団子(これが巨大で、野球のボールほどもある)と合わせて食べる。その団子のほうには全く味がないのでちょうど良いというか極端というか。おいしいのだけど、ボールは3分の1程度残してしまった。

 一応観光客なんだからシェーンブルンにでも行こう、と思っていたのだがモーツァルトハウス既に時刻は15時半、手近なところでモーツァルトハウスに行く。旧名フィガロハウスである。前はヴィーンの史跡を示す旗がついていたが、今は新しくなってそういう表示はなく、経営母体が変わったのだろうか、料金は9ユーロに跳ね上がっていた。ヴィーンの、音楽家の住居跡を資料館として公開するときはだいたい2ユーロ程度のはずなので、これは単独ではかなり高い。しかし、その分展示が充実していて、料金に入っているオーディオガイドは非常に細かい内容をフォローしマニアックとも言えるものだった。なにしろ一つの部屋で5分くらい、オーディオガイドにかかってしまう。中には、「○○に関するさらなる話題は次の何番を押して下さい」とまた細かい話が。ここの端末も携帯電話を二周りほど大きくしたもので、持っていると疲れる。2部屋に1箇所くらいベンチがあって助かった。展示物に対して話が長いので、最後にはもう、展示物をシュテファン寺院見ないでオーディオガイドを聞いていた。そうそう、フィガロハウスから変わって残念だった点が料金以外に一つある。撮影禁止になってしまったのだ。手書き譜面や初演ポスターくらい(どうせレプリカだし)撮影したってバチは当たるまいに。商売商売、ってとこか。
 オーディオガイドを全部屋・全プログラム聞いてしまったので、ここドイツ式でも2時間近くかかってしまった。既に17時半。ホテルに一旦戻る。WLANがいまいちなので、ホテルの共用PCを使ってメイルチェックなどをした。日本語表示はIEの中にかろうじてフォントが(しかしかなり怪しい字体)あったので見られるが、入力はダメ。そもそもドイツ式キーボードなのでメイルアドレスの"@"が打てない。どうやって打つのか、探すのに3分くらいかかってしまった。他に、Yが左下に移動しているし(たしかにドイツ語ではYは役立たずではある)。何度もタイプミスした。

 着替えとJ.シュトラウスII 像ベートーヴェン像荷物の入れ替えをしてホテルを出た。今日もギリギリである。コンツェルトハウスへの道順を、ガイドブックの通りに移動したらとんでもないところで降りる羽目になった。まあ私が手前で降りた可能性もあるのだが、いずれにしても問題は、コンサートまであと7分のところで、到底10分以内では着けない場所(シュタットパークよりかなり北)にいることだ。とりあえず南下すべく歩き、公園の中でシュトラウス像を撮影し、ベートホフェンプラーツでベートーヴェン像を撮影し、と余計なことをしていたら、ホールに着いたのは19:45過ぎであった。15分の遅刻、しかもチケット売り場がちょうど閉まったところだ。これはやっちまった..そもそも今日の演目はなんだろう、とホール入り口にある検索端末を見たら、以下の曲目だった。
・ハイドン/交響曲第92番 ト長調 「オックスフォード」
・メンデルスゾーン/ピアノ協奏曲第1番 ト短調
・メンデルスゾーン/交響曲第4番 「イタリア」
Pf:ミハエラ・ウルスリーザ
指揮:クラウディウス・トラウンフェルナー/ヴィーン室内管弦楽団
こ、これは..協奏曲を除き、秋に横浜シティシンフォニエッタでやる曲ではないか。これを聴けませんでしたでは一生後悔するであろう。コンサート会場(モーツァルトザール)に行き、開演後で暇そうにしている会場係のおじさんに話しかける。
 私:あの、今日のコンサート、始まっちゃいましたよね。
 係:そうですよ、チケットをお持ちですか?
 私:それが、カッセ(チケット窓口)が閉まっちゃったんで(原因は自分の遅刻だが)買えなかったんです。どうしても聴きたいんです。
 係:んー、ちょっと待ってて下さい。
で、おじさんはどこやらに内線電話をして、「ではついてきて下さい」と歩いていく先は、チケット窓口の事務所でもなんでもなく、ホールのドア。そこでドア係のおばちゃんに引き継がれる。あのー、とおずおず尋ねようとしたら、早口のドイツ語で「メンデルスゾーンから中に入りなさい。あと10分ほどです」と言われた。お金は..と尋ねる雰囲気ではなかった。こういう場合チップを渡すべきかどうか迷ったが、他に遅刻して待っている人(当然、チケットを持って)がいるので、現金授受は憚られた。

 演奏は、ちょうどハイドンの3楽章。あと10分、と言われなくてもそのくらいは分かる。舞台の様子が廊下にあるモニタに映っていて、それに加え、この手のホールはドアが2重ではないので、中の音がよく聞こえる。非常にしゃきっとした、快速テンポの演奏だ。楽器は明らかにモダンだ。ナチュラル使ってくれたらと思ったがそれは仕方ない。ハイドンが終わったところで急いで会場に入る。先のおばちゃんが、「前のほうの空席に座って!」と言い置いて会場の中のほう(別の遅刻者の案内だろう)に去っていった。その前のほうとは、舞台間近、2列目の一番下手側である。演奏がよかったせいか、拍手がものすごいことになっている。私が座った隣のおばあさんは足まで使ってパチパチドンドン、すみませんそのノリについて行けないんですが..
ステージ間近の席に そうこうしている間にピアノが中央にセットされ、ソリスト登場。背の高い女性で、なんとなく風貌、背格好が小川典子さんのような感じ。そして、先の拍手がすぐ理解できた客席はこんな感じ。オケもソロも、とんでもないテンションで弾いている。オケは1stヴァイオリンが3プルト半なのでまさに室内管弦楽団なのだが、まとまり方が尋常ではない。これぞ「一所懸命」ということではなかろうか。コンミスのオーヴァーアクションが嫌味にならない、本当の音が出ていると思った。ヴィヴラートは少なめで、かつーんと立ち上がる音が心地よい。管楽器もこれでもかというほどにダイナミックレンジが広く、そして音がきれいだ。存在自体知らなかったオケだが、何だか打ちのめされた。で、私も周りと同じように拍手をしていた。
 ピアノのソロでアンコール。ブラームスの間奏曲と言っていたが私は知らない曲だ。これはメンデルスゾーン演奏が激しかったのに対し、しっとりと聴かせる佳曲だった。これにも割れんばかりの拍手。
 休憩の間、私は興奮しながら日記メモを書いていた。こんな街に住んだら私は毎日の刺激で頭がヘンになってしまいそうだ。こういう音楽を毎晩消費している音楽大都市、恐るべしである。
コンツェルトハウス 後半のメンデルスゾーンも実に伸びやかで、快速で、自然に流れる演奏だった。速度を煽るところ、そしていつの間にか戻しているところ、強弱や楽器間バランス、そういった細かい工夫があってのイケイケ演奏である。ただ自暴自棄的に速いわけではない。感心しきりであった。
 アンコールは無し。いや全く、それこそ「蛇足」と言えるだろう。もっとも、彼らのテンションでなら、アンコールも同じ水準は保っていたに違いないが。私はニコニコしながらカールスプラーツまで歩いていた。タダで入れてくれた係の人に感謝の言葉もない。
シュニッツェルサンドイッチ、不味かった..
 市電の停留所でシュニッツェルサンドイッチ(ハンバーガーのように挟んだもの)を買って食べた。あとは帰るだけだ。頭の中で「イタリア」の旋律を歌いながら市電で帰途についた。



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